13本書の初版本は明治20年(1887)2月に刊行され、3か月後の同年5月には早くも再版が出された。明治21年4月には訂正版が刊行されている。『井上円了選集』第3巻に収録されているのは訂正版である。初版本と訂正版との違いは、キリスト教や仏教の僧侶を激しく批判する部分など、過激な部分が削除され、国家の独立に関する部分など、補充の説明が必要な部分が追加されている。本書は、その後に『仏教活論本論』の三部作、『破邪活論』、『顕正活論』、『護法活論』の刊行を予告した。前二者は刊行されたが、最後の『護法活論』は晩年に『活仏教』というタイトルで刊行された。本書の意義は、第一に、明治初めの廃仏毀釈により沈滞していた仏教界を奮起させたことである。第二に、伝統思想である仏教を新しい西洋哲学を尺度として再評価する方法が斬新であった。(佐藤 厚)005仏教活論序論 (初版本) 『仏教活論序論』は井上円了の代表的な著作である。目次はないが、内容から①「国家と真理」、②「国家と宗教」、③「真理と宗教」の3部に分けられる。①「国家と真理」は、「人誰か生まれて国家を思わざるものあらんや、人誰か学んで真理を愛せざるものあらんや」 (井上円了『仏教活論序論』初版、哲学書院、1887年、p.1)から始まり、これは名文として知られる。その後、国家を護ること、真理を愛することが両立するさまを「護国愛理」の4文字で示した。これは戦前の一時期、東洋大学の校是となったものである。②「国家と宗教」では日本という国家と宗教の関係について、キリスト教と仏教とを対比して、仏教こそが日本の歴史とともにあり、将来宗教をキリスト教に変えてしまうならば日本は日本でなくなるとまで言い切る。③「真理と宗教」では、円了が真理と考える西洋哲学の原理と合致する宗教が仏教であることを述べる。このように本書では国家、真理、仏教という3項が分かちがたく結びついており、円了思想の中核をなす。⦿井上円了著、哲学書院発行 ⦿明治20年(1887)2月発行 ⦿東洋大学井上円了記念博物館蔵
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