一 はじめに井上円了(以下、円了と略す)は安政五年(一八五八)越後国三島郡浦村の慈光寺住職の長男として生まれました。一〇歳で明治維新を迎え、明治一四年(一八八一)、二三歳で東京大学文学部哲学科に入学し、明治一八年(一八八五)に同大学を卒業しました。物心ついた時期に戊辰戦争が、青春の多感な時期に西南戦争、自由民権運動が起きるなど、日本の急激な近代化にふれながら人生を歩み始めたのでした。国家制度は明治維新の変革を担った前の世代の人びとが整えました。しかし学芸や1 文化、企業など市民社会を構成する諸要素の近代化はまだ手をつけられないまま残さ 一 はじめに
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