東洋大学史ブックレット7
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私の村へもやってこられた。村では大騒ぎで、大学者を迎えて講演を聴こうというので村としては最善の方法を講じて歓迎した。先生の講演会場は小学校で、宿は私の寺であった。講演は教育勅語に関するお話と例の妖怪学説とであった。講演を終わって私の寺へ帰られた先生はビールの盃を重ねながらいろいろ面白い天狗のお話などを聞かせて下さった。当時のことで今なお私の忘れないのは、何でも先生は日本酒は絶対禁酒であるが、ビールという西洋の酒なら飲まれるそうだと誰か郡役所で聞いてきた。ところがビールは私のむらにはない。大騒ぎして一里ばかり隔たった町から買ってきたものである。そのビールを先生は一本と少しばかり飲まれた。然るにあまったビールの始末に困ってまず養父が少し飲んでみて、こんな苦いものは飲めないと吐き出す。私はビールの名くらいは聞いていたので、何でも美味いはずであると、少し注いで貰って飲んだところがまったく苦いので驚いた。こんなもの美味いといって飲む人の気が知れなかった。夕飯を終井上円了の全国巡講30

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