下には「広島県賀茂郡川尻村したものだったことがわかります。広島県では熊野筆がありますが、その近くの川尻筆も高級品の産地として知られていました。明治末年から昭和頃までが最盛期だったといいます。銘は中国宋代の詩の一節で、「猛虎一声してで猛虎の一声する声が聞こえ、山には高くさえた月がのぼっている」というほどの情景を詠ったものです。孤高の詩興があり、よく書画にも表されていました。三菱財閥を起こした岩崎弥太郎が好んで揮毫していたといいます。孤軍奮闘という岩崎の心境をうかがうことができます。円了もそうしたところが気に入ったのでしょうか。この筆は円了の没後、遺族から親しかった京北中学校校長へ贈られたもので、講演 旅行の時に使ったものだという由来書が付けられています。筆先がいかにも使い込んだようになっていて、自由闊達な円了の書にふさわしいようすが窺われます。印章はいくつもありますが、「無官無位非僧非俗北川新三郎謹製」とあり、この人物が銘を付けて販売妖怪道人円了」というのが、円了の人と山月髙し」とあり、「遠く井上円了の全国巡講28
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