私が一五、六歳のことでした。ある寺の座敷に寝ていましたが、深夜になって目が覚めました。あたりはひっそりとしてさびしく、まさに草木も眠れるような雰囲気でした。ところが、本堂の方の辺りで、人が板敷きの場所を歩く音がハッキリ聞えました。その音はガタンガタンという響きでした。最初は盗賊が入ってきたのかと思いましたが、盗賊であれば、あのように足音を高くして歩くはずはないと思いました。その音は近くなるかと思えば遠くなり、そしていつまでも鳴り止まないのでした。そこで、私は「幽霊の寺参り」だろうかと想像しました。かつて檀家の人が死んだあとで、その亡者が寺へ参ると聞いたことがあったからです。だから、これこそ亡者の寺参りに違いないと思いました。そして、翌朝に早々に起きて本堂に行きました。別室があって、そこにボンボ 4ン時計があり、この時計の音が幽霊の正体ではないかと分かりました。このような話を聞くと、円了も普通の少年と変わらない恐怖体験をもっていたこと井上円了の妖怪学
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