私が一〇歳前後のことと記憶しています。ある夜に眠りについて、夜半過ぎにフト目が覚めました。もう、灯りは消えて真っ暗でした。私がそのとき枕に頭をつけたまま眺めていると、隣の部屋の障子じの戸ほ骨ねの間から、なにものかが室内をのぞきこんでいる顔が見えました。怪しいと思って、起きなおして見ましたが、やはり同じでした。それなのに、少しの間、その顔を引っ込めて見えなくなった、と思い込んでいると、すぐにまたのぞきこんでいる顔が見える。そのときの私の考えでは、世の中でいうところの「幽霊だ」と思い、そう思うと急に怖くなり、布団を頭からかぶって、震え上がって寝ていました。つぎの朝、起きて早速調べました。そうすると、のぞきこんでいた障子の戸骨の間に破れていたところがあり、その切れ口が風によって動いて、誰かがのぞきこんでいるように見えたのであろうと分かりました。また、円了は第二の体験についてつぎのように語っています。しょう 3 一 青少年期の恐怖体験
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