く、講義録のページ数も、一定の制限内にまとめ、多からず少なからざるように加減されて一貫していたのは、一つには先生の多年著述の経験によるものでしょうが、また先生の構想統合のすぐれて大きな力によるものとしなければならないと、大変感嘆した次第です。このように、円了は膨大な資料をまず四冊の和綴じのメモ帳に筆記し、さらにこれに記号をつけて整理していました。このメモ帳の実物は現在も東洋大学にあります。これを見ながら、田中氏の言うように、記憶を再現して口述し筆記をさせて、およそ二五〇〇ページの『妖怪学講義』を完成させたのです。また、この資料を整理し構想したときに、円了は思索に没頭してつぎのような行動をとったと、田中氏は言っています。 先生は注意凝集の力がとくにすぐれていました。そのため、先生がある事項を専心一意に考えておられるときは、そばの喧噪なるも妨害とはなりませんでし 井上円了の妖怪学30
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