佐藤 泰人

〈新入生へのメッセージ〉

学ぶ? いや、教えよう!

 大学での学び方は、人それぞれ自分にあったものがあるでしょう。ここではその一つとして、「学ぶのではなく教えろ」という発想を提案します。

 もちろん、いきなり先生を突き飛ばして教壇を乗っ取れ、と言っているのではありませんよ。「教える」というのは、「人に説明できる」と言い換えてもいいでしょう。授業を受けたり、本を読んだりして物事を理解した気にはなりますが、それをいざ他の人に説明しようとすると、なかなか難しいものです。細かいことを忘れていたり、順序立てて伝えられなかったり。話を聴いたり文書を読んだりすることはもちろん大切ですが、それだけでは学びとしては中途半端。そうした情報は確かに脳味噌のどこかに入力され、脳味噌なりの秩序で整理されるのでしょうが、我々にはどうも混沌としているばかりです。これを話すなり書くなりして一線上に出力することで初めて問題が整理される。これで学びの一サイクルが完成すると私は思うのです。

 事を単純に、英語学習だけに絞ってみましょうか。そしてこれならあなたも家庭教師や塾講師のアルバイトをして文字通り「教える」ことができます。実際私も学生時代にそうしたアルバイトをやっていました。例えば中学一年生の授業で、「トムもお腹がすいています」という意味の文章を書かせた事があります。一人の生徒が、Tom is hungry too. と書きました。ところがほかの生徒たちはTom is hungry, too. と書いています。その子は心配になって、コンマがなくちゃいけないの?と質問しました。皆さんは答えられますか? どう説明しますか? 子供たちはこうした素朴な疑問を投げかけてきて、こちらは本当に勉強になりました。それまで受け身で学んでいた英語を、彼らに説明するために整理・分析し、授業を通じて出力する、そのことによって英語が私の体に叩き込まれていったのです。実に、教える事は学びにつながる。英語力を身につけたいのならば、英語教師のアルバイトをする事をおすすめします。仕事はきついですが、確実に、というよりほとんど強制的に力がつきますよ。

 さて、もうひとつ上の例で注意したいのは、生徒たちが実際にノートや黒板に書く事で、問題が明らかになったということです。そうやって明確な形で出力しなければ、コンマの有無といった一見小さな問題は見過ごされていたでしょう。こうした小さな疑問を大事にしてください。話を聴いたり文書を読んだりする中でいろいろな疑問が出てくると思いますが、まずそうした疑問を明確化する事。それが問題解決・問題理解へとつながっていきます。例えば上の文を読んでいて、例文は「トムはお腹もすいています」という意味にもなるんじゃないのかな、という疑問が浮かんだでしょうか。ではこの曖昧さをどう説明したらいいのでしょうか。tooを辞書で引きましょう、文法書で調べましょう。説明が載っていない? 別の、もっと大きな辞書や文法書にあたりましょう。そのために図書館へ行きましょう、大型書店へ行きましょう、いやもっと手近な「英米文学科共同研究室」という場所もありますよ。調べがつき、理解できましたか? ではそれを誰か他の人に説明してみましょうか。

 飲み会の席で隣の人を捕まえて語るわけにもいかないtooについての蘊蓄を傾ける格好の場が大学の授業です。実際、大学の授業は学びのサイクル――疑問を持ち、それについて調べ、ほかの学生に向けて発表し、聴き手はそれに対して疑問を持ち、それを質問という形で明確に言語化し、それに対する説明が期待され――というサイクルが回転する場なのです。少人数の演習であれば、直接的な議論のやり取りがあるでしょう。大人数の講義であれば、質問票などで疑問提示をしたり、記述式の試験で問題を整理する事になるでしょう。そして最終学年での卒業論文は、問題を提起し、整理分析し、論理的に文章化していく作業を自力で(もちろん先生やほかの学生によるサポートはありますが)行うのです。

 このサイクルにおいて一つ重要なのが他者の存在です。他の人にどう伝えるか。たまに試験解答で滅茶苦茶な日本語に出会うときがあります。こういうふうに読み手が理解できない場合、実は本人も理解していません。授業で発表する時や試験で解答する時、もちろんレポートや論文を書く時、必ず聴き手や読み手を意識してください。(なによりもまずあなた自身が自分の声の聴き手であり自分の文章の読み手なのです。)それからほかの学生の発表や先生の講義をきちんと聴く事。(もちろん発表者は聴くに値するだけの発表をしなければなりませんから周到な準備が必要です。)きちんと聴く、とはその発表に対して、疑問点や思いついた事など、何か反応を返すことができる、ということです。もし授業時にそうした質問やコメントができなければ、授業終了後に学友に話すなり、先生に質問すれば良いでしょう。ともかくこの学びのサイクルをお互いに回しあう、ひとり受け身でいるのではなく、互いに伝え合い教え合うことが重要なのです。

 教える相手・伝える相手は英米文学科の学友たちだけではありません。今度は英米文学科の学生として、他学科の友人や学生でない人たちに教えるのです。巷には英語があふれていますよね。例えばATM。あれって何の略?という質問に答えられますか?(ちなみにイギリスではcashpointと呼ばれていて、文字通りの分かりやすさがあるのですが。)英文科の学生としては、英語に関するいろいろな質問について答えられなければならないし、もしその場で答えられなければ後で調べて何らかの説明をしなければなりません。そのためには英文科の学生であるあなた自身が、普段から英語や文学、英語圏の文化などについてアンテナを張っておくことです。Mary Quantの化粧品を買うだけでなく、1934年ロンドンに生まれた彼女について語ってください。英文科の学生は英語に関して責任を持っています。例えば医学部の学生の友達に下痢のメカニズムについて聞いても何も答えられなかったら、ちょっと不安ですよね。さすが英文科、と言われるようになってください。

 

〈自己紹介コラム〉

専門分野:イギリスおよびアイルランド文学、特に詩。

最近の業績:『アイルランド文学――その伝統と遺産』(共著、開文社、2014年)、『ディラン・トマス――海のように歌ったウェールズの詩人』(共著、彩流社、2015年)、‘Poetry and Mountaineering in Leslie Stephen’s The Playground of Europe.’(『白山英米文学』45号、2020年)など。

研究テーマ:イギリスおよびアイルランドにおける詩と社会の関係

 

〈関連サイト〉

研究者総覧(researchmap):https://researchmap.jp/g0000207027

動画で見る「Web体験授業」:http://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/video-lecture/20150818_03.html

教員が語る「学問の魅力」:http://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/professor/2013060122.html

 

〈新入生のための推薦書〉

書名:『大学生の論文執筆法』

著者:石原千秋

出版社:ちくま新書

推薦理由:文章を読む・書くとはどういうことかきっちり教えつつ、逸れる横道で楽しませてくれる。こういう題名だからといって、お手軽なマニュアル本を期待しないように。

 

書名:『英文学とは何か 新しい知の構築のために』

著者:ロバート・イーグルストン

出版社:研究社

推薦理由:原題はdoing english――本のタイトルなのに小文字で『英文学をやる』。この題名に凝縮された問題を展開しつつ、英文科で学ぶとはどういうことか考えさせてくれる。イギリスの国語教育事情も見えてきて興味深い。