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東洋大学「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ2010セミナー

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  • 共催:環境思想・教育研究会
  • 後援:一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム

「環境/人間学―環境問題への「人間学的」アプローチ―」

日時

2010年10月23日 13時30分~

会場

東洋大学白山キャンパス 6号館6204教室

13時30分~13時45分 開会の辞

大島 尚(東洋大学教授/TIEPh第2ユニット長)

13時45分~13時50分 講師紹介

関 陽子(TIEPh研究助手)

13時50分~15時50分 基調講演
「近代文明を超えてエコロジー文明へ―労働とコミュニケーションの思想的系譜にふれつつ」

尾関周二(東京農工大学教授/環境思想・教育研究会代表) 

16時00分~16時15分 研究概要報告 
「環境問題に関する研究の報告」

東垣絵里香(東洋大学大学院社会学研究科 博士後期課程)

16時15分~16時40分 報告1(TIEPh価値観・行動ユニットから)
「環境配慮の価値観と行動―社会心理学からのアプローチ

大島尚(東洋大学教授)

16時40分~16時05分 報告2
「環境配慮行動の規定因―計画的行動理論からのアプローチ」

今井芳昭(東洋大学教授)

17時10分~17時40分 共同討議

17時40分~17時45分 閉会の辞

山田利明(東洋大学教授/TIEPhセンター長)

司会

大島 尚

コーディネーター

  • 関 陽子(TIEPh研究助手)
  • 武藤伸司(東洋大学大学院文学研究科 博士後期課程)

尾関周二氏(環境哲学)

セミナー報告

 2010年10月23日にTIEPhと「環境思想・教育研究会」(東京農工大学)との初めての共催セミナーが行われた。
 講演には東京農工大学から尾関周二氏(環境哲学)をお迎えし、さらにTIEPh第2ユニット(価値観・行動ユニット)からの報告をまじえて“環境問題への「人間学的」アプローチ”に関する共同討議を行った。
  今回のセミナーは、社会哲学を専門にする尾関氏の「エコロジー文明」に関するご講演と、TIEPh第2ユニットの研究成果報告という二本立てで構成された。当日は東京農工大学や東洋大学の大学院生の姿が多く見受けられ、また参加者の専門分野や興味関心も多岐にわたっていたことから、共同討議も活発に行われた。
 セミナーのテーマとして掲げられた「環境/人間学」には、環境問題を「人間学的課題」として学問横断的に考察する必要性が提起されている。環境危機の克服のためには、様々な学問分野からの知見と課題を共有する必要があると考えられるが、今回はそのために、哲学と心理学の接点を探りながら理解を深め、互いの視野を広めることが目的として据えられた。また、環境問題という共通の課題のもとで、各々の研究がどのような意義を持っているのかを考える機会にもなったと言える。
 尾関氏はまず、「人間学」という課題をカント哲学の紹介から提起された。そして哲学のエッセンスを体系的に解説されながら、「農(広義の意味で、農林水産業に相当する)」の意義を哲学・思想的に探究し、氏独自の「エコロジー文明」について語られた。そのユニークな点は、資本主義的近代化における負の側面を、「疎外された労働」と「疎外されたコミュニケーション」という二つの切り口から分析することにある。尾関氏はマルクスの交通概念やハーバーマスのコミュニケーション論を通じて「労働」の意義を捉え直し、「農」という労働のもつ可能性を提示する―これが「エコロジー文明」の基盤になるのである。また、「農」は人間と人間、人間と自然を媒介する(物質代謝)ものであるが、それをコミュニケーション論に展開させることによって、「農」の思想は共同性の排他的側面を克服する「共生型共同社会」へと結実するのである。
 尾関氏のこうした哲学的な分析は、むろん経済や政策、科学技術などとは異なる方面の学際研究であると言えるが、こうした「人間」のラディカルな哲学的アプローチが、環境破壊的な文明を克服するための多くの重要な課題や理念をわれわれに提供していることに、改めて気づかされたと言える。
セミナーの後半では、第2ユニットから3者の報告が続けて行われた。
 まず「環境問題に関する研究の報告」(東垣絵里香)では、主に社会心理学における環境問題研究の現状について解説された。試料として「日本社会心理学会(9月17日~18於広島大学)」を用い、社会心理学研究になじみのない参加者にも理解しやすいよう工夫された報告であった。ここでは「達成目標理論」に関する個人的な研究のテーマもあわせて紹介されたが、そこに教育学的な観点が含まれていたことから、後の報告(今井芳昭)にある「行動意図」との連関性について、共同討議に一つの重要な論点を提供することにもつながった。すなわち哲学や心理学における人間学的研究は「環境教育(Environmental Education)」に大きく貢献しうるものであるが、今後のTIEPhの研究活動に「教育」という観点を取り込むことが、討議を通して新たな課題として惹起されたと言える。

大島尚(TIEPh)

 続く「環境配慮の価値観」(大島尚)では、アジア諸国における、環境問題に対する意識調査の成果について報告された。その「環境意識」や「コミュニティ意識」に関する比較調査は、尾関氏のコミュニケーション論や共同性概念と相まって、多くの関心を呼んだと思われた。とりわけ、数値データに基づく心理学の実証的な分析方法は、思想や理念研究においては基本的に用いられることのない手法であるために、哲学・思想研究によっては得ることのできない興味深い結果を参加者に提示した。セミナーの参加者の中には、理科系(出身)の研究者や科学哲学に通じた方もいたが、哲学上の概念分析が提起する問題や理念と、データに基づく実証的な人間理解をいかに“つなぐ”かということが、「環境/人間学」における課題の一つであると確認されたのではないかと思われる。

今井芳昭(TIEPh)

 最後の「環境配慮行動の規定因」(今井芳昭)では、「計画行動理論」の枠組みから、“環境配慮行動をいかに実行してもらうか”に関する社会心理学研究の紹介や成果が報告された。ここでの重要な研究成果は、ある行動を実際に行うという場合に、その行動をおこす意図ないし意志が「行動自体が望ましいものと捉えられている」ことや「コントロール感」「重要な他者からの期待」といったものに規定されていることである。そしてこれらを踏まえた上で、環境配慮行動を可能にするものとしての「イメージ法」「フット・イン・ザ・ドア法」などの有効性が吟味された。
 ところで第2ユニットにおける価値意識や環境配慮行動に関する「人間学」的アプローチは、工学的な発想を吸収しつつ、実態としての人間を把握することを基本にしていると言える。その学問的意義は、人間を決してある種の理念像に押し込めてしまうことのない探究にあり、環境に関する実践的なレベルで、あるいは現代社会の諸問題を科学的に掘り下げることのできる深遠で有益な人間理解を提供している。
 しかしその一方で、(おそらく他の自然科学と同様に)社会心理学の研究においても人間観、自然観といった思想や理念の影響下にあり、調査をどのように行い、何を分析すべきか、そして何のためにその研究を行うのかという問題には、これらの哲学的探究も抜きにすることはできないことであろう。まさに共同討議を通して指摘されたことの一つが、「環境/人間学」における“「環境」とは何か”という未整理の(哲学的)課題であったのである。結局のところ尾関氏が示していることも、確立した学問分野としての「環境哲学」があることではなく、多様な関心、多数の研究領域にとって、哲学・思想的に掘り下げて考察するという方法論の重要性なのである。
 また、環境配慮行動の規定因に関するものは先の「価値意識」とリンクしていると考えられるが、その「行動」の先にあるものが、尾関氏の論点である「現代社会システムの病理(環境と人間の(・・・)破壊)」を克服する脱近代(de-modernity)を可能にしうるものなのかどうかという点は、今後の考察とすべき接点(・・)であるように思われた。
 以上がセミナーの概要であるが、これからも哲学と心理学という枠組みを基盤に、あるいはその枠を超えて、「環境/人間学」の発展を楽しみにしたいと思う。
 尚、今回の「環境/人間学」セミナーは、講師の尾関周二氏はもちろんのこと、「環境思想・教育研究会(東京農工大学)」および「一般社団法人サステイナビリティー・サイエンス・コンソーシアム」をはじめ、TIEPh第2ユニットの研究員、およびコーディネーターの武藤伸司、ほか多くの大学生・大学院生らの協力によって開催することができた。以上の方々に深く御礼申し上げる。
(関 陽子)