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第3ユニット 第2回研究会報告(「ブータン、幸福社会という国づくり:国民の属性と境界画定のプロセスから」)

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「ブータン、幸福社会という国づくり:国民の属性と境界画定のプロセスから」

第3ユニット 第2回研究会

7月4日(水)、東洋大学白山キャンパス5号館2階5201教室にて、第3ユニット第2回研究会が行われた。発表者は宮本万里氏(国立民族学博物館現代インド地域研究拠点研究員)、発表題目は「ブータン、幸福社会という国づくり:国民の属性と境界画定のプロセスから」であった。近年のブータンに対する関心の高さを反映してか、会場には学内外からの多くの来場者が参加した。発表者自身による要旨は以下の通り。

第3ユニット 第2回研究会

ヒマラヤ東端に位置するブータン王国。この国は近年、幸福社会や環境先進国として注目を集めており、またチベット仏教を国教とする最後の主権国家としても知られてきた。中国とインドという二つの大国に挟まれながら、主権国家として生き残るための難しい舵取りを担ってきたこの国の為政者たちは、どのようにして現在のブータン像を作り上げていったのだろうか。それを知るための手掛かりとして、発表ではまず国籍法や婚姻法における「ブータン人」像の形成過程に注目し、時系列に三つの時期に分類した。国民像形成の第一期は1950年代から60年代であり、初の国籍法が公布され、領土内に定住する農牧民をほとんど区別なく包摂していった。第二期は1970年代であり、国内の「異民族」間の婚姻を奨励し、国語や国史の共有をはかるなど、血と文化をとおした国民の均質化がはかられた。第三期となる1980年代から90年代は、そうした「国民像」の実体化を試みるとともに、「他者」を明確に同定し排除しようとする他者排除の時代となっていった。これが国際的にも非難を受けた1990年代初頭の「ネパール系住民」難民化を引き起こしていた。しかし、この時期からブータンは、自然環境保護への傾倒をみせはじめる。政府は「すべての生き物に対する憐れみ」を求める仏教の思想を根拠としながら、自然を守り育てるブータン人という国民像を構築し、当時のグローバルな環境主義の潮流に呼応しつつ国外へ表象するとともに、開発のスピードを抑えることを公言したのだった。こうした自己表象は欧米諸国に広く受け入れられ、多様な援助を得ながらブータンの自然保護区は拡大していった。そして、人々は様々な情報規制と開発抑制政策の下で、欲望を抑制し、「足るを知る」、従順で幸福感の高い国民として表象されるようになっていく。しかし、政府の描くこうした国民像は当然ながらすべての国民を代表するわけではない。発表の後半では、「環境に優しく」、「良き仏教徒」であり「禁欲的」であるような「ブータン人」像を構成する様々な属性や価値が、時に背反しせめぎ合う様を、フィールドワークから得られた具体的な事例をとおして描き出し、人々の生活世界における国民像の重層性とその翻訳過程の多元性について考察した。