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第2ユニット 第3回「ポスト福島の哲学」講演会

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保養と避難の現状

第3回「ポスト福島の哲学」講演会

10月6日(土)、東洋大学白山キャンパス甫水会館二階会議室において、第2ユニット主催の連続講演会「ポスト福島の哲学」の本年度第3回目となる研究会が開催された。東洋大学国際哲学研究センターでは、2011年3月11日の大地震・大津波およびそれに続く福島第一原発における大事故以降の「ポスト福島」と呼びうる状況にあって、いかなる「哲学」が可能かというテーマを研究課題の一つに掲げ、これまで数回にわたり国内外から著名な哲学者・哲学研究者と共同して、連続的な講演会・研究会を開催してきた。ただし、このような理論的、概念的に問題を捉える作業と並行して、今、実際に「福島の現状」はどうなっているのか、どのような問題を抱えているのかについて認識を深めていく必要があると考え、今回の研究会では実際に被災者・疎開者を支援する活動を行なっている方々を講師に招き、「保養と避難の現状」を主題とした研究会を開催した。

講演者は、福島市にとどまり「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」の世話人をつとめる吉野裕之氏、三重県四日市市を拠点に被災者・疎開者の受け入れの支援を行なう「母子疎開支援ネットワーク「hahako」」および「支援ねっと@みえきた」代表の木田裕子氏、東京において「子どもたちの健康と未来を守るプロジェクト」および「母子疎開支援ネットワーク「hahako」」のメンバーとして送り手と受け手の橋渡しを行なう疋田香澄氏の三名である。

それぞれプロジェクターなどを用い、各団体がどのような活動を展開し、どのような課題を抱えており、現在の状況をどのように考えているかといった点について、ときにはユーモアを交えつつ多様な観点から報告いただいた。

第3回「ポスト福島の哲学」講演会

吉野氏は、主として福島で生活を続ける子供たちを一定期間福島県外などで生活させる「保養」プロジェクトを展開している。吉野氏によれば、2012年6月に成立した「原発事故子ども・被災者支援法」など、被災者の生活支援のための法的支援は少しずつ整いつつあるものの、現在の福島では住宅地においても高い線量の放射能汚染が依然として計測される状態が続いている。そのなかで生活するとりわけ子どもたちへの支援、身体的・精神的な健康の保持のために「保養」プロジェクトが実際的な意義を持つことが説得的に述べられた。

木田氏は、三重県四日市市を拠点に、東日本大震災直後から、とりわけ母子疎開のコーディネートをする団体をすぐさま立ち上げ、疎開先を探す被災者、全国各地で疎開先を提供し避難者を受け入れる方々とのあいだの連絡をとりもっている。今回の講演では、その活動が実際にどのように組織され、どのような問題を抱えてきたか、また現在はどのように状況が変わってきたのかについて説明をいただいた。なかでも疎開の選択にまつわる経済的な問題、精神的なケアの問題から、受け入れ自治体による対応の違い、避難者と支援者や滞在者の温度差にいたるまで、実際の活動を通さなければ見えてこない問題が多々指摘された。

第3回「ポスト福島の哲学」講演会

疋田氏は、東京を拠点としつつ、福島県内へ健康相談会、保養相談会、法律相談会など多岐にわたる活動を展開するほか、放射能に関する知識、避難・疎開・保養情報などを伝える機関紙の発行などに携わっている。今回の発表ではこうした活動について、とりわけ「当事者の選択」ないし「ニーズ」という観点からそれがどのように展開しうるか、またどのような難しさを抱えているかという点について報告をいただいた。避難や疎開を希望する当事者の側でも、東日本大震災以降の状況の変化で諸々の意見が出てくるようになり、場合によっては「保養」を語ることすら難しくなってくるような状況も生じてきている。支援する側でも、「リスク」についての判断をめぐって、「科学的な判断」、「社会的な文脈」、「政治的・経済的な文脈」など、場合によっては衝突しあうさまざまな立場がありうる。こうした状況のなか、当事者たちに防御の機会を逸させないような、継続的な対話の必要性が改めて提起された。

以上の報告を受け、司会の村上勝三研究員による質問のあと、来場者から多くの質問が出された。4時間にわたる研究会であったがきわめて活発かつ有意義な議論が展開されたといえる。実際に現場で、あるいは当事者とのコミュニケーションをとりながら活動をしている方々のお話しを伺うことは、問題に対して哲学的なアプローチを試みるうえでも有益なものであった。

なお、発表の模様は連続講演会「ポスト福島の哲学:保養と避難の現状」(20121006) から見ることができる。