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第3ユニット 連続研究会「文字化された宗教教典の形成とその意味」第2回

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連続研究会「文字化された宗教教典の形成とその意味―多文化共生を図るツールを考える―」第2回

 10月18日、東洋大学白山キャンパス6号館にて、第3ユニット連続研究会「文字化された宗教教典の形成とその意味―多文化共生を図るツールを考える―」第2回が開催された。多文化共生にとって宗教の意味はとりわけ重要となり、その中でも教理を文字化した教典が、それぞれの教団が存立するための核となる。ではそれぞれの宗教で教典はどのように文字化され、オーサライズされてゆくのか、という問題意識のもと開催されている連続研究会である。

 まず、大阪大学教授の榎本文雄氏より、初期仏教の観点から、「初期仏典の形成と異宗教との共存」という題目のもと発表がなされた。要旨は以下の通り。

榎本 「多文化共生社会の実現に向けて不可避の課題の一つが宗教間や宗派間の対立であることは、現代世界の現状のみならず歴史を回顧しても頷けるが、初期インド仏教は旧来のバラモン教や同時代のジャイナ教などの異宗教の中で一定の共存を果たしていた。その要因を初期仏典の形成過程に探ると、まず仏典の最古層と考えられている『スッタニパータ』の「アッタカヴァッガ」における論争不関与の姿勢が注目される。所謂「無我」や「真のバラモン」も従来の学説のようにバラモン教との対決要素と捉えるのは不適切であり、身分制度や戦争に対する初期仏典の記述には社会体制ではなく個人の心を変革しようとする姿勢が認められる。律文献が周辺社会との協調を図るべく形成され、仏教教団内部でバラモンが最大勢力を占めた事実は、バラモン教との宥和関係を示唆する。以上を踏まえて共生の意義に戻ると、初期仏教の中道(バランス)の考え方が現代社会においても肝要であることがわかる。」  

 続いて、大乗仏教の観点から、堀内俊郎研究助手が、「『楞伽経』の形成と、その外教批判に見る多文化共生への智慧」と題する発表を行った。氏はまず、『楞伽経』の形成について先行研究に基づいて概観した。さらに、特に外教による涅槃観を批判したある節を取り上げ、その外教批判の論法に、多文化共生の智慧を学ぼうと試みた。要するに、そこでは外教に対して一種の「棲み分け」的な態度が見られるのではないかというのである。そもそも初期仏教では、類同の態度として「論争の超越」という姿勢が見られることが着目される。さらには律(教団の運営規則)によれば、「外道不共住」といって、もとは異教徒であった者が仏教の教団に入る際には、一定期間、異教の思想が抜けたかどうかの観察期間が置かれる。時代は下って法然も、「論争の起こるところには煩悩が生じるので智者はこれを遠く離れる」と述べている。このように見ていけば、抑圧や制服ではなく、さらには近年流行している妥協や融和でもなく、お互いがお互いを害さない限りでの共存である思想的「棲み分け」こそが、多文化共生への智慧ではないかと結んだ。

榎本2

 続く討論では内外の参加者より、仏教とバラモン教との関係、論争の回避が多文化共生に持つ意味などについて白熱した質疑がなされ、充実した研究会となった。