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国際井上円了学会設立大会を開催

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 東洋大学創立125周年を機に、創立者井上円了の多岐にわたる業績を明らかにすることを目的とし、国際井上円了学会が設立された。設立大会が開催されたのは、井上円了が東洋大学の前身である私立哲学館を開設した9月16日の前日、9月15日であった。
 講演会やシンポジウムに先立ち、午前11時より国際井上円了学会総会が開催された。総会では、規約ならびに会長・副会長・理事が承認され、事業計画の報告などが行われた。この総会の承認をもって、国際井上円了学会が正式に発足したことになる。なお、9月15日の設立時における会員総数は個人会員91名、団体会員3団体である。
 国際井上円了学会設立準備委員長を務め、午前中の総会で副会長に選出された三浦節夫副会長(東洋大学教授)の挨拶を皮切りに、午後のプログラムが始まった。
 初めに、竹村牧男国際井上円了学会会長(東洋大学学長)による設立記念公開講演「井上円了の哲学について」が行われた。講演で説明された井上円了の哲学は、以下の三点にまとめられる。第一の点は、井上円了が哲学を「諸学の基礎」として重視したことである。哲学は諸学問の原理を究明し、諸学を統轄する中央政府のような役割をもつのである。第二の点は、井上円了がヘーゲルの哲学を、大乗仏教と同じ真理を述べるものと評価したことである。井上円了は四聖の一人にカントをあげており、西洋近代哲学の代表者としてはカントを考えていたように見える。だが、哲学の内容としてはヘーゲルの哲学をより高く評価していた。井上円了は、ヘーゲルの立場を「相対」と「絶対」が離れないとする「相絶両対不二」、「二元同体の理」を語る思想だと理解したのであり、それは大乗仏教の天台の立場と響きあうものなのである。ただし、井上円了が『哲学新案』で提出した世界観は、ヘーゲルの立場を越えて、華厳の仏教思想の雄大な世界観を彷彿とさせるものであった。第三の点は、井上円了が活動主義こそ哲学の究極の立場であると考えたということである。哲学は絶対の立場を明らかにする理論的な学問であるが、同時に現実社会に応用していく「向下門」をもつ。そして、哲学の目的はこの「向下門」にある。現実世界での活動こそ、井上円了にとって最も重視すべきことだったのである。

 

 公開講演に引き続き、公開シンポジウムが行われた。シンポジウムは、「国際人井上円了 その思想と行動」と題され、国内外からの5名の研究者の提題が行われた。
 シンポジウムの最初の提題者はゲレオン・コプフ理事(ルーター大学准教授・国際哲学研究センター客員研究員)であった。「井上円了における「日本仏教」の概念」と題された提題では、井上円了の「日本仏教」についての言説が孕む国家主義への傾倒などの危険性について指摘しながらも、円了の仏教哲学がグローバルな哲学の可能性を開くものであるということが強調された。円了の仏教哲学のもとでは、西洋近代の二項対立的な二元論が否定される。それ故、そこでは西洋近代の枠組みにとらわれない、グローバルな哲学の枠組みが開かれ得るとされた。
 二番目の提題は、ミヒャエル・ブルチャー氏(東京大学国際本部兼東洋文化研究所特任准教授)の「井上円了における「主躰」:日本思想の近代化についての一考察」であった。 ブルチャー氏は、「主躰」という語を最初に用いたのが井上円了ではないかと指摘し、井上円了が『哲学要領』を執筆する際に参考にしたシュヴェーグラー著『哲学史』の英訳や、清沢満之の「主躰」と穂積八束の「主體」などを参照しながら、円了が「主躰」という語を用いた理由を探った。そして、フィヒテの絶対主観(absolutes Subjekt)をヘーゲル的に読み替えていくこと、そこに日本の哲学の論理的出発点があるとされた。
 次いで、王青氏(中国社会科学院哲学研究所東方哲学研究室研究員)の「蔡元培と井上円了における宗教思想の比較研究」と題された提題が行われた。蔡元培は井上円了の著作に学び、中国の危機的状況を救うためには、中国仏教の伝統を復活させるべきであると考えるようになった。また井上円了の妖怪学から、迷信からの脱却の必要性を学んだ。しかし、後に蔡元培は宗教全般に対して否定的になった。この蔡元培の思想の転回について研究することは、中国近代思想史全体の解明にも貢献するであろうと述べられた。

 

 四番目の提題は、ライナ・シュルツァ理事(国際哲学研究センター客員研究員)による「世界哲学の交差点―井上円了における理論哲学と実践哲学―」であった。諸学を統轄する哲学の役割を強調する井上円了の理論哲学は、アリストテレスの第一哲学に相当するものであることが指摘された。また、井上円了の実践哲学としての人間学的な哲学は、ソクラテスや孔子に通じる哲学の実存的な出発点を持つことが指摘された。さらに、シュルツァ理事は、理論哲学の必要性も、人間学を通じて解明されるものであるとした。
 最後の提題は、三浦節夫副会長の「井上円了の世界旅行」であった。この提題は、円了の世界旅行を、豊かなエピソードを交えながら紹介するものであった。世界旅行を通じて、円了は世界から日本を見る視点を獲得すると共に、日本を世界基準に発展させる必要性も学んだ。国際人としての複眼こそが、井上円了の生涯を貫くものであると強調された。
 その後、シンポジウムでは、フロアを交えた熱のこもった討議が繰り広げられた。午後のプログラムは一般にも公開され、会員外の一般参加者71名やプレスを加え、121名の参加者があった。たくさんの来場者による熱気に加え、内容的にも公開講演による井上円了の哲学の概説や、シンポジウムでの国際的な視点からの提題を通じて、井上円了研究の基盤というものが見えてきた、充実した大会であった。