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国際井上円了学会第6回学術大会を開催しました

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国際井上円了学会第6回学術大会開催報告

 2017年9月16日(土)、東洋大学白山キャンパス6号館 6201教室にて、国際井上円了学会第6回学術大会が開催された。今大会では例年より多い6名の一般研究発表と、台湾から招聘された佐藤將之教授による特別講演が行われた。第六回大会出野氏

 出野尚紀氏(日本女子大学文学部)による「哲学堂の構想についての一考察」は、
哲学堂についての円了の言及を時系列で整理し直し、いかにして「精神修養的公園」という構想に到ったかを論じている。当初は学校移転用地として購入した和田山の土地であったが、大学開設その他を記念する建物として哲学堂(現在の四聖堂)を建立し、さらに退隠後の住居としての非公開の利用を経て、自身が海外で視察した公園からも影響を受けつつ、最終的に東洋・日本の聖賢を顕彰する諸堂や図書館を建設し、精神修養施設として拡張していった。

 堀雅通氏第六回大会堀氏(東洋大学国際観光学部)による「井上円了の観光論」は、海外視察旅行中に書かれた「坐ながら国を富ますの秘法」を中心に、円了の観光論がどのようなものであったかを総合的に論じている。それは富国強兵・殖産興業を目的としていたが、外貨の獲得といった直接利益だけではなく、外国との相互理解・人的交流の進展のような間接利益、さらには景観美による芸術・教育への好影響といった社会的・文化的効果にまで及んでいる。実地に見聞した欧米の観光事情を踏まえた円了の観光論は、現代の観光政策にも通じるような先見性に富むものであった。

 湯沢まゆみ氏(東洋大学文学部)による「「漢字」における井上円了と前島密―漢字不可廃論と漢字廃止論の間で―」は、明治期に漢字をめぐって対立する主張を展開した、井上円了と前島密について論じている。前島密は漢字の習得自体に多大な時間がかかることを問題視し、全国民に教育を普及させるには習得容易な仮名表記を中心にすべきと考えた。円了は漢字教育が不可欠であると考え、23回にわたって哲学館漢文科学生に漢字不可廃論を講じた。円了のそれは漢字の文字としての特徴や思想上の意義、日本の歴史や文化における位置、東アジア諸国との関係を重視した国家戦略上の利点などを踏まえる、多角的かつ客観的な論であったという。

 第六回大会李氏李立業氏(中国社会科学院大学院)による「井上円了著作の中国語訳及び近代中国の思想啓蒙に対する影響」は、日清戦争後の中国に井上円了の著作がどう影響したかを論じている。当時の中国では社会制度の変革を急務として、日本を介して西洋を学ぶという方式で思想上の近代化が目指され、1911年までに958冊に及ぶ日本書が翻訳されたが、最も多くの著作を翻訳された日本人思想家が円了であったという。李氏は中国の主要な図書館の蔵書における円了著作の翻訳書に関する調査結果を報告し、また、康有為、梁啓超、光緒帝、蔡元培といった知識人達との円了の交流や、著作を通じての思想的影響の大きさを明らかにした。

 第六回大会中島氏中島敬介氏(奈良県立大学ユーラシア研究センター)による「『戦争哲学一斑』に見る、井上円了の日本(人)倫理観」では、<通俗化と実践>という円了思想の重要な性質から、『戦争哲学一斑』という著作の解釈可能性を拡げることを試みている。日清戦争における戦勝に世間が沸き立つ中で書かれ、一見したところ戦争賛美、侵略主義を内容とするかのような同書は、その言説を注意深く検討するならば、その後50年にわたって戦争を繰り返す日本の先行きを予言する書でもあり、また教育勅語との緊張関係の中で<世情や時勢への迎合>や<権威や権力の逆用>という方法を駆使しながら、自身の倫理観を普及させようとした書として読むことができるという。

 第六回大会彭氏彭春凌氏(中国社会科学院近代史研究所)による「清末革命思潮における日本宗教学―井上円了と姉崎正治を中心に―」では、章太炎を中心として、清代末期の革命思想家達における近代日本の宗教学説の受容について論じている。章太炎は姉崎正治から西洋のキリスト教中心主義への反論や、大衆動員を可能にする宗教の心理的機能を学び、円了の宗教論からは革命を実現する主体を道徳的修養としての仏教が育てるという思想を得た。西洋科学をも用いて「心」を論じる姉崎や円了の理性的な宗教論は、中国の儒教的知識人達にとって受け入れやすく、それぞれの革命論に強い影響を与えていたのである。

 第六回大会佐藤氏佐藤將之氏(国立台湾大学文学院哲学系教授)による特別講演「明治時代「哲学者孔子」像の形成における井上円了」は、円了の思想・学問における漢学教養の重要性を伝記的事実や言説から論証し、また儒教や孔子への言及を時期ごとに検討していくことで、科学や西洋哲学を経由してそれらの位置づけがどう変遷したかを跡づけている。仏教との関係から論じられることの多い円了であるが、実際には幼少期から東京大学時代までに受けた教育の大部分を漢学が占めていた。論理性・実証性の面で劣ることから、一時は西洋哲学・倫理学よりも低く位置づけられたものの、明治後半期に円了が真理探究から道徳実践へと思想的転換を遂げる中、哲学者であると同時に優れた実践者でもあった孔子が再評価され、主として国民道徳の文脈で漢学の復権が唱えられるようになった。

 今年度の学術大会では特別講演をはじめとして中国語圏からの研究発表が目立ち、それにともなってか、例年とは異なる分野から新たに学術大会に参加された研究者も少なくない。当学会に関わって円了研究を続けてこられた方々の研究の深化を感じさせるとともに、漢学方面からの円了の思想・学問の検討や近代中国に円了が与えた影響についての議論など、円了研究の広がりを予感させる大会となった。