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教員が語る大学院の魅力(福祉社会システム専攻 村尾祐美子 准教授)

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見えなくされた事柄や問題を可視化し、他者へと開かれた「知」に

村尾先生

Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?

 異なる考えの人とも議論可能な「知」を生みだす

 「研究者として研究」することの意味は、異なる考えの人にも検証可能な「知」をつくりだすことにあると思います。

 世の中には、存在しているにも関わらず社会のなかで見過ごされている重要な事柄や問題が世の中にはたくさんあります。これらは、見過ごされ続ける限り、社会のなかで大切にすべき事柄とも対処すべき問題とも見なされない。それゆえに「その事柄は重要だ」とか「その問題を解決しなくては」とかのコンセンサスも得られないし、私たちの社会がもつ様々なリソースを有効に活用して、その事柄の持続をはかることも、その問題を解決することもできません。その結果、社会にとって重要な働きをしていた事柄が簡単に失われてしまったり、深刻な問題がいつまでも放置されたりといったことが起こります。

 だからこそ、「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」を可視化することが必要です。しかし、それらをいままで見過ごしてきた側、見過ごしてもよいとしてきた側にも、しばしばそれなりの理屈があります。その事柄の重要性、解決すべき問題であること、何らかの社会的リソースをそれらに割り当てるべきことをあなたがただ主張しても、異なる考えを持つ他者は、そう簡単には納得しないでしょう。

 では、どうしたらよいのか。そのような異なる考えの人にも検証可能な「知」というかたちで、「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」の存在やその解決策を提示する、という方法があります。言い換えれば、研究者として「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」を可視化する、ということです。こうすることで、自分の考えの根拠を示すことができ、異なる考え方の人と議論することが可能になるのです。

 

Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。

 「社会階層」への関心から「労働市場における男女不平等」をテーマに

 高校時代、ちょうどバブル経済期でしたが、『金魂巻』『クラース』などの社会経済的・文化的格差に関わる本が話題だったので読んでみた、というのが、「社会階層」に目を向けたきっかけです。本を読み終えた私は感心し、「社会階層」という視点から、今まで愛読してきた小説を読み返してみました。すると、これまで何気なく読んでいた会話や描写のあちこちに、「社会階層」に関わる含意が浮かびあがってきたのです。「社会階層」という視点から社会を捉えるのは面白いし必要なことだ、とその時思ったことを覚えています。

 大学では、「社会階層と文化」を専門とする先生の指導を受けました。ゼミで学ぶうちに、社会階層と社会的不平等との関連に興味をもち、最終的に私は、「労働市場における男女不平等」を卒論のテーマに選びました。というのも、当時の社会の主流派は「現存する賃金等の男女間格差は合理的な格差だから、問題ない。政府による男女間格差縮小のための現在以上の取組は不要、むしろ有害」と主張していたのですが、自分が就職活動をしてみると、同じ職種であっても採用基準や採用後の配置に男女で明らかな違いがあることがわかり、「労働市場における男女不平等の問題は、見えなくされて、解決を阻まれている。それなら私が可視化しよう」と思ったからです。もっとも当時の私にそれを実現する力量はなく、この思いを胸に大学院に進学しました。勉強をすすめるうちに、自分の目標達成のためには、労働市場のありかたを把握できる全国規模の男女双方を調査対象とする個票データが必須だとわかりましたが、当時はデータアーカイブが整備されていなかったし、いち院生の身ではそうしたデータを収集するための全国調査も無理です。困っていたところ、修士1年の冬、幸運なことに大学院の先生の紹介で社会階層に関わる大規模な全国調査に参加できることになりました。その調査データを使って思いを貫いた博士論文をまとめました。その後も、労働の場でのさまざまな問題を可視化することをめざし、研究を続けています。

 

Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください

 労働の場での諸問題のより妥当な理解をめざして

 「男女双方を含む労働市場のなかで、地位や社会的資源がどのようにジェンダーや雇用形態に影響されつつ配分されているのか」を解明することを、一貫して主な研究テーマとしています。具体的には、仕事を遂行する際に物事を決定する権限の強さや、役職や係長への昇進、今以上の地位への主観的な昇進見込みなどについて、職場のありようやジェンダーがどのような影響を与えているのかを、質問紙調査データを統計的に分析することで明らかにしてきました。これからも、男女双方からなる労働市場のなかで男女が差異化され序列化されている実態を可視化したり、異性や異なる雇用形態の人が同じ職業・職場に存在していることが男性あるいは女性に与える影響を明らかにしたりすることを通じて、日本における労働・ジェンダー・雇用形態のありようにとそれに関わる諸問題についてのより妥当な理解に貢献したいと思っています。これらの点についてのより妥当な理解があってこそ、社会のリソースをより適切に活用した、より有効な問題解決が可能になると考えているからです。

 

Q.研究者として、つらかったことや、嬉しかったことは?

 つながる喜び、学ぶ楽しさ

 「労働市場のなかの不平等に関わる見えなくされた問題を可視化し、解決に貢献したい」というのが研究上の大きな動機なので、同じ思いを抱くさまざまな方々と研究を通じて出会い、つながることができるのは、私にとって大きな喜びです。

 また、研究者として、学ぶことは純粋に楽しいです。労働に関する新たな知識は、社会のありようについての自分の理解の妥当性の評価に役立ったり、理解を更新したりしてくれます。時には、知らなかった新しいものの見方を教えられ、それによって社会の見え方がより豊かになる幸運にもめぐりあえます。もちろん、自分の頭ではなかなか理解が追いつかない場合には、時につらくもあるような努力をしなければなりませんが。

 

Q.大学院で学ぶことの魅力とは?

 実践知を学術知に接続し新たな「言語(=伝え、考えるためのツール)」を手に入れる

 一つ目の魅力は、「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」を可視化し、異なる視野・異なる経験・異なる価値観を持つ他者と共有するための、新たな「言語(=伝え、考えるためのツール)」を手に入れられることです。大学院で学術的な訓練を受けることにより、自らが日常生活のなかで蓄積してきた個人的な経験知・実践知を、学術的な知へと接続して新たな視点から捉え直し語ることが可能になります。学術知に基づく「言語」を用いて語られる「知」は、異なる考えの人の検証にも開かれた、より幅広い人々と共有可能なものです。この新たな「言語」は、「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」についてのあなたの「知」を、人々とより幅広く共有し、よりよい現実を作り出すための議論により幅広く役立てることにも、きっと役立つことでしょう。

 二つ目は、共に学ぶ仲間との出会いです。平日夜間・土曜日開講の大学院という私たちの専攻の特色とも関わりますが、さまざまな分野での実践知を備えた学ぶ仲間たちと出会えることは、学ぶ経験を一層有意義なものにしてくれると思います。さまざまな実践知と学術知の出会いを通じて、双方の「知」がより豊かになってゆく瞬間を、私たちの専攻でぜひ経験していただきたいです。

 

Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージお願いします。

 あなたの知る世界を他者と語るための新しい「言語」を手に入れよう

 あなたが日常生活をおくる現場で感知している「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」を、学問の世界の言葉(=学術知)を使って可視化してみませんか。そのプロセスを経て、あなたの実践知はより研ぎすまされた、他者と共有可能な「知」となり、問題解決のための、あるいは、事柄の持続をはかるための議論を、他者と行うことが可能になります。あなたが感知している「見えなくされた事柄」「見えなくされた問題」を他者と語るための新しい「言語」を、私たちの専攻での学びを通して、ぜひ手に入れてください。

 


プロフィール

氏名: 村尾 祐美子 (むらお ゆみこ)

経歴: 現在、福祉社会デザイン研究科福祉社会システム専攻 准教授

http://ris.toyo.ac.jp/profile/ja.704c7c52d3ecff5a7d02bf1a94d73d6e.html


(掲載されている内容は2017年6月現在のものです)