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教員が語る大学院の魅力(社会福祉学専攻 伊奈川秀和教授)

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 30年以上関心を持ってきたのは、「連帯」

伊奈川秀和先生

Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?

自分にとって研究することは「理論」と「実務」の融合

 社会福祉学は、固有の理論と体系をもった学問分野であると同時に、社会福祉事業、ソーシャルワークや社会福祉行政などに関わる実務的・実践的な分野でもあります。しかも、人間の生活や人生に関わるだけに、人が社会に生きていくために不可欠な分野です。それだけに、研究を実践に生かし、実践を意識した研究をするといった双方向性が必要と考えます。フランスで交差点をカルフール(carrefour)と言いますが、福祉は正に学問の十字路だと思います。もちろん、理論と実務の融合は、近視眼的な意味で役に立つといったことではなく、実務と一定の緊張関係を持ちながら理論を深めていくことが重要であり、研究者としての矜持を持ちながら、福祉政策や現場との関係性を構築していくことかもしれません。

Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。

若い頃のフランスでの研修が大きく影響

私は多くの研究者と異なる経歴というか遍歴を辿って今に至っています。昭和57年に旧厚生省に入り、普通に公務員としてのスタートを切っています。ところが、入省2年目にフランスの厚生省で研修を受けることになったのが、その後の人生に大きく影響しています。当時、日本の社会保障も十分知らない頃でしたから、フランスの社会保障を垣間見たことは、新鮮で知的意欲をかき立てられました。そのときの経験が、日本の社会保障を外国との比較で客観的に分析する上で役に立ったような気がします。また、滞在時の勉強の成果を原稿にして寄稿する機会が与えられたことで、文章を書く習慣が身についたことも大きかったと思います。その後、OECD日本政府代表部で外交官として勤務したりして、グローバルに物事を見るよう努めてきましたが、研究者になるという点で一番大きかったのは、平成11年からの3年間、九州大学法学部で教鞭をとったことです。それ以降も公務員として勤務する傍ら研究を続けてきました。想定外の人生というか、色々な偶然が重なった面はありますが、30年以上研究を続けてきたわけですから、やはり研究が好きだったのだと思います。

Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください。

30年以上関心を持ってきたのは、「連帯」

これまで色々なテーマに関心を持ってきましたが、30年以上こだわってきたのは、社会保障の根底にある「連帯(solidarité)」です。あまり一般には知られていないかもしれませんが、連帯はフランスだけでなく、日本の法律にも登場する重要概念です。実は、フランスで最初に出会った言葉に「新しい貧困(nouveaux pauvres)」がありますが、言葉の表面的な意味は兎も角として中身という点で、それが何を意味するかが分からなかったのです。何しろ、日本で社会的排除(ソーシャル・エクスルージョン)がまだ認識されていない時代でしたから、語義といよりも、それが如何なる問題を指すのか分からず戸惑いました。そのとき同時に出会った言葉が連帯で、社会保障といえば連帯といった感じでした。それまで、私はドイツが社会連帯の母国だと思いこんでいたのですが、むしろフランスだったのです。しかも、社会保険だけでなく、社会福祉も含めた基本理念が連帯であり、特に国民連帯が頻出します。そんなこともあり、連帯を自分なりに徹底的に研究してみようと思った次第です。そのほか、関心を持ってきたのは、社会福祉法人法制などの社会福祉法制です。私が昭和62年に児童福祉行政に携わっていた頃、福祉は措置、措置費、社会福祉法人が三位一体となって構築されていました。措置費に精通することが、福祉を知ることだと勘違いしたほどです。その後の制度の変遷をみると、介護保険や社会福祉基礎構造改革などを経て、今では随分異なる制度の建て付けになっていますが、社会福祉法人法制の重要性は高まっているように思えます。商法で会社法が研究されているのに、社会福祉では、社会福祉法人の研究はまだまだのような気がします。自分なりに今後とも研究していこうと思っています。

Q.研究者として、つらかったことや、嬉しかったこと?

研究はよろこび

公務員生活をしてきた人間から見て、やはり研究はよろこびです。何と言っても、自分で選択した研究内容を続けられることは、感謝すべきだと思います。もちろん、公務員の仕事もやりがいはあるのですが、それぞれのポストは自分で決めるわけではありませんし、在任期間は長くても2年、せいぜい3年です。実現できたこともありますが、やれなかったことや、やり残したこともあるのが常です。それと比較するなら、研究は孤独な世界ですが、全て自己責任で続けることができるのが、他の世界にない特徴だと思います。あえて言えば、研究に付随する苦労は、他の世界とは異質な苦労なのでしょう。

Q.大学院で学ぶことの魅力とは?

学部にはない世界が大学院にはある。

大学院は、学問の交差点だと思います。色々なバックグランドの院生が国内外から集まる中で、指導教官とともに学問の最前線に接することになります。山にたとえるなら、学部のハイキングコースから、本格的な登山コースに入ることになります。研究テーマに応じて、どの山を目指すかは院生の判断ですが、それぞれが目指す山が高さと深さを備えた山であればあるほど、チャレンジのしがいがあるでしょう。知的営為の積み重ねを通じて学問の頂上を目指し、たどり着いたときの喜びを感じられるよう、環境を提供してくれるのが大学院という場所だと思います。

大Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言。

大学院の空気は自由にする。

人口減少という急速な構造変化の中でグローバル社会の一員として我が国、そして皆さん生きていくためには、羅針盤が必要です。学問は、単に知識を与えてくれるだけでなく、暗闇の中で我々を導く松明となり、激動する社会や経済を見る目を養う身につけることにつながります。研究者を目指すだけでなく、大学院で学び社会に戻るのも選択肢です。あるいは、大学院をステップに更なる飛躍を目指すのもあるでしょう。大学院は、皆様に様々な可能性を与えてくれる自由があります。我々と一緒に、学問の大海に乗り出しましょう。


プロフィール

氏名: 伊奈川秀和(いながわ ひでかず)

経歴: 現在、東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻教授

    1982年東京外国語大学フランス語学科卒業、厚生省(現厚生労働省)入省、

    この間、九州大学法学部助教授、社会・ 援護局保護課長、年金局総務課長、参事官(社会保障担当)、

    内閣府大臣官房少子化・青少年対策審議官、中国四国厚生局長等を経て、

    2016年4月より現職。博士(法学)(九州大学)。

専門: 社会福祉学、社会保障法学

著書: 『フランスに学ぶ社会保障改革』(中央法規、2000年)、

     『フランス社会保障法の権利構造』(信山社、2010年)、

     『社会保障法における連帯概念』(信山社、2015年)など


(掲載されている内容は2016年5月現在のものです)