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教員が語る大学院の魅力(社会学専攻 海野敏教授)

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研究することとは「新しい価値観の創造」

海野


Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは

研究することとは「新しい価値観の創造」

人文社会科学は、社会でどんな役に立つのか、自然科学に比べて社会貢献の度合いがわかりにくいかもしれません。例えば、工学、化学、医学であれば、産業の振興や福祉の増進など、社会にどう貢献するのか明白ですし、数学、物理学は、それらの学問を支える基礎研究と位置付けられています。

しかし、哲学、文学、社会学などは、世間では、人類の知的好奇心を満たす学問ではあっても、必ずしも社会に貢献する学問と思われていないふしがあります。

そんなことはありません。人文社会科学は、既存の市場や国家の価値観を前提とせずに市場や国家の価値観を見直し、社会における価値とは何かを問います。より良い社会とは何かを考え、研究の成果を新しい価値観の創造へつなげることで人類社会に貢献をしています。私の専門である「情報学」は自然科学と人文社会科学を融合する学問で、“情報”というコンセプトを軸にして世界と社会を読み解くことで、現代社会における新しい価値を探っています。

Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください

研究者となったきっかけはパソコンとの出会い

私が大学に入学した頃、まだインターネットは名前さえ知られておらず、まわりの誰も携帯電話を持っていませんでした。ようやくパーソナルコンピュータが普及し始めましたが、まだ高価で買うことができなかったので、大学の先輩のパソコンを借りて遊びながら、プログラミングの基礎やソフトウェアの原理を学びました。

入学時は哲学科への進学を希望していたのですが、大学2年生の秋の進学振分けで教育学部への進学に変更し、そこで情報学を学びました。情報学の研究では、コンピュータの知識と技術を活かすことができました。やがて国内でもパソコン通信(ニフティサーブやPC-Van)が登場し、大学ではインターネット(Uucp)でデータ通信ができるようになりました。コンピュータが情報と知識の流れを変えて、まもなく世界と社会を一変させることは明らかでしたので、もっと学びたい気持ちが高まって大学院へ進んだことが、研究者になった直接の契機です。

Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください

 テキストとネットワークと身体をいずれも情報メディアとして研究

大学院では、まずテキスト情報の検索システムについて研究しました。情報検索が専門家の特殊技能だった時代です。スタンフォード大学の大学院生だったラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがグーグル社を起業した頃で、ペイジたちと同様に、検索適合性の数量化を試みましたが、彼らのようには成功しませんでした。

1999年から、モーションキャプチャシステムという装置を用いて、身体動作を対象とした3次元モーションアーカイブの構築に取り組み始めました。具体的なフィールドとしたのは、ダンスの身体動作です。このテーマはいまも継続しており、クラシック・バレエ、ヒップホップ・ダンス、コンテンポラリー・ダンスの3Dデータを大量に計測済みです。この研究に関連して、新聞や雑誌にダンスの評論記事、解説記事を書くようになり、舞踊評論家としても活動しています。

ほかに、デジタル・ネットワーク化が進んだメディア環境における図書・図書館の変容についても共同研究を行っています。文字情報からダンスの動作情報までテーマが拡散しているように見えるかもしれませんが、情報学の視点から、テキスト、ネットワーク、身体を、いずれも情報メディアととらえて研究しています。

Q.研究者として(またはご自身が大学院生の時に)、つらかったことや、嬉しかったこと?

研究に活きた大学院時代のアルバイト

研究者としての苦楽の中心は、もちろん自分の研究の成功と失敗にあります。しかし、いま思い返すと、研究技能は周辺的な活動によっても補強されたと感じます。ここでは大学院時代の思い出として、二つのアルバイトのことをお話しします。

一つは、新世代コンピュータ開発機構(Icot)という研究所でのアルバイトです。人工知能型の「第五世代コンピュータ」を開発する国家プロジェクトの研究所で、このプロジェクトには10年間で570億円が投じられたと言われています。私は自然言語処理のチームの末端でアルバイトをしましたが、研究の最先端に触れたことは非常に刺激的でした。その後、人工知能研究(AI)はブームが去ってしばらく沈滞しましたが、近年、データマイニングや深層学習の研究成果によって新たなブームを迎えており、感慨深いです。

もう一つは、任天堂のファミリーコンピュータ用のゲームを開発する会社でのアルバイトです。いまとは比べものにならないほど速度と機能が限られたゲーム機でしたし、開発したゲームは2本ともヒットしませんでしたが、チームによる開発でソフトウェア開発の技術を磨くことができました。

Q.大学院で学ぶことの魅力とは

学部と大学院の差

学部での研究と大学院での研究は、まったく異質です。卒業論文を書けば、それなりの研究をしたつもりになれますが、大学院で学ぶのがホンモノの研究です。例えば、言葉への感度が異なります。学部生ならば何気なく使っていて許される専門用語も、大学院生であれば厳密な定義が求められます。論理的な思考能力もいっそう求められます。学部生ならば見逃される論理的な矛盾も、大学院生であれば見逃されません。

そして、その質的な差こそが大学院で学ぶことの魅力です。学術的な課題について、厳密な言葉を使って論理的に思考することは、決して安楽な体験ではありません。しかし、厳しいからこそ得られる知的な満足感、精神的な達成感があります。

Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言

人生設計としての大学院進学

大学院進学を考えている方には、いくつものパターンがあると思います。大きく分けるならば、大学をまもなく卒業予定で学びを継続したい方と、社会人を経験して大学へ戻って学びを再開したい方でしょう。どちらも大学院進学をライフコースの選択肢の一つとして考えていただければと思います。

とりわけ大学を来年卒業予定で学びを継続したい方には、ぜひ大学院卒業後の人生設計も同時に考えていただきたいと思います。日本は高校からの大学進学率が50%を超えて、大卒がマジョリティーになりましたが、大学院進学率はまだまだ高くありません。同学年の友人たちが社会人になって自活してゆくなかで、何となく勉強が好きだから、研究をしてみたいからではなく、自分の人生にとって大学院がどのようにプラスになるのかを考えて受験することは、とても大切です。大学院卒業後の就職までしっかりイメージした上で受験されることをお薦めします。


プロフィール

氏名: 海野 敏(うみの びん) 

経歴: 現在、東洋大学大学院社会学研究科社会学専攻 教授。

    1986年 東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学

    1991年 東京大学教育学部助手

    1995年より、東洋大学社会学部

専門: 情報学、図書館情報学、メディアコミュニケーション学。

著書: 『電子書籍と電子ジャーナル』(2014年)、『図書館情報学基礎』(2013年)、

    『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』(2012年)など(いずれも共著)。

URL:  http://www2.toyo.ac.jp/~umino/


(掲載されている内容は2016年5月現在のものです)