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松行報告要旨

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シンポジウム

循環型社会の形成と環境経営の理念

東洋大学経営学部教授 松行 康夫

 地球環境の問題は、経済の発展とともに悪化を続け、人類を存続の危機へと追い込み、もはや、先延ばしができない状況にある。地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨による森林破壊、野生生物の激減、化学物質による汚染、廃棄物の処理などが、地球環境を劣化させ、われわれの日常生活を脅かしている。さらに、資源、エネルギーの使用量も、年々、生活水準の向上とともに増加し、それらの枯渇とともに、地球温暖化を加速させている。
 2000年の到来とともに、多くの企業は、経営戦略のなかで地球環境問題を重視するようになった。その時点を前後して、それらの企業は、環境経営のシステムづくりから、実体化へと経営戦略の転換をした。とくに、1998年に、省エネ法が改正され、省エネ性能の最も高い商品に目標基準を合わせる‘トップランナー方式’が採用された。この事実は、それまで各社の平均が基準となっていた‘護送船団方式’からの離脱を意味する変革である。
 近年、企業活動のグローバリゼーションとともに、株主、消費者、従業員、取引先、金融機関など、ステークホールダーの環境意識が高揚した。たとえば、(1)ISO取得、グリーン調達などが、グローバルな企業取引の条件となった、(2)環境意識に目覚めたグリーンコンシューマーが増加した、(3)自治体、NPOなど、地域社会から環境保全の要請が高まった、(4)企業の環境対応が、企業イメージの要素となった、(5)環境汚染に対して、企業(経営者)が責任の訴追、補償の要求をされるなど、コーポレートガバナンスを揺るがすようになった。
 ISO9000シリーズの認証取得は、グローバルな‘企業取引のパスポート’といわれている。企業の環境対応は、グローバルな競争優位に対して、きわめて密接に関係してきた。また、これは、市場、金融機関などから、資金調達をする際に、その判断基準にもなっている。とくに、自動車産業においては、燃料電池車開発のデファクトスタンダード獲得競争に見られるように、環境問題が、グローバルな産業の再編成を導いている。今後、環境規制が強化されれば、排出権取引も、企業のグローバル戦略に大きな影響力を持つ。
 ここで、循環型社会の形成にともなう環境経営とは、企業活動を循環構造にすることにより、環境負荷を極小化し、エコロジーとエコノミーの統合を目指す経営のことをいう。このような環境経営を実現するためには、これまでの環境問題に対する認識を、つぎに示すように、漸進的に取り組みを強化して変革する必要がある。それらの取り組みとは、つぎのようである。(1)エコロジーとエコノミーの関係は、トレードオフから、シナジーの関係へ転換させる。省エネ、省資源は、環境負荷を軽減し、生産コストを低下させる。さらに、研究開発での環境対応は、‘イノベーションの引き金’にもなる。(2)従来の産業活動は、製品の生産、流通、販売、廃棄のワンウエイであった。これからは、製品の消費後に、リデュース、リユース、リサイクルするツーウエイにおいて発想、設計、開発をする必要がある。(3)排出物は、廃棄物ではなく、産業活動によって生まれる、価値ある地上資源に変える。(4)顧客満足の要素を、従来のQCD(品質、コスト、デリバリー)から、E(環境)の視点を持ち込んで、E+QCDへ転換させる。このことで、環境負荷の低減とQCDの向上が、同時に実現可能となる。(5)環境問題は、点、個別単位によるクローズドシステムでは解決できない。企業では、スタッフに加えてラインも加えた全員参加で、1社だけでなく数社が協創して、さらに顧客、行政、NPOなども参画して、オープンネットワークで取り組む。
 企業にとって、環境認識を一挙に変えることは、きわめて難しい。環境経営の実現に向けて、高い目標を掲げ、地道に取り組みを強化していくことが重要である。
 これまでは、物のリサイクルを中心とした循環型社会の形成と環境経営のあり方を論じてきた。しかし、物の循環に注目したリサイクルを実施できたとしても、有限なエネルギーを消化する一方であることにも注意が必要である。このことを理解するには、自然の循環プロセス、つまり自然経済を認識する必要がある。自然経済は、そこに生息する生物が実行する生産、消費、解体の一連の活動を通して、循環プロセスをつくる。そのプロセスで、エントロピーの生成と放出を行い、その全体プロセスを通して有機的地球、‘ガイア’の生存を支えている。
 近年、物をリサイクルすることによる循環型社会の形成の必要性は、おおかた、国民的なコンセンサスを得てきている。しかし、そこには、自然経済を支える重要機能である解体の問題、さらにエントロピーの問題も無視されたままである。このような認識の欠落を補うためにも、アメリカの経済学者ジョージェスク・レーゲンの所説に注目したい。彼は、‘すべての経済活動は、価値ある物質、エネルギーを廃棄物に変える不可逆過程に他ならない。自然を無視した経済活動は、改新しなければ、将来的に支払う代償はあまりにも大きい’という。
 ジョージェスク・レーゲンは、それを単なる廃棄物への物質的フローとは見ず、‘生の享受’という生命プロセスと同一視する。このことは、すべての経済システムは、エントロピーの生成と放出のプロセスを内蔵していることの指摘である。企業の生産システムを通した生産行為は、エントロピーの生成プロセスであり、廃熱と廃物を介してエントロピーを系外に捨てることにより維持されている。それは、まさに生命プロセスと同列であるが、環境のエントロピーは増大する一方である。エントロピーの増大は、‘システムの死’を意味することを、重く受け止める必要がある。