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松尾報告要旨

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シンポジウム

 

東洋大学学術研究推進センター長
国際地域学部教授  松尾 友矩

 1. はじめに

 平成13年1月より施行された循環型社会形成推進基本法(循環社会基本法)では、「循環型社会」を次のように規定している。循環型社会とは、「(1)廃棄物の発生の抑制(reduce)、(2)循環資源の循環的な利用(再使用(reuse)、再生利用(material recycle)、熱回収(thermal recycle))の推進、(3)どうしても利用できないものの適正な処分の確保、を実現することで、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷が低減される社会」として定義されている。これは、廃棄物問題への対応策の優先順位の法定化を行っているものであり、技術的および経済的な可能性を踏まえつつ実施することを前提に、(1)発生抑制(リデュース)(2)再使用(リユース)(3)再生利用(マテリアルリサイクル)(4)熱回収(サーマルリサイクル)(5)適正処分、の順とすることを定めたものである。そして、個別の物品を対象とした回収、再資源化のために、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設資材リサイクル法、食品リサイクル法、自動車リサイクル法が制定され、リサイクルの強化が図られてきている。
 しかし、このとき注意しなければならない論点として、環境基本法における、「環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築」との関係がある。それは、循環型社会は持続可能な発展を求める社会と同義の概念となるかどうかを論じることの必要性についてである。循環型社会の定義の中には、「天然資源の消費を抑制し、環境への負荷が低減される社会」が入っているのではあるが、前述の(5)の適正処分の必要性が強調され、最終の埋め立て処分場不足の問題がクローズアップされすぎると、大量リサイクルが循環型社会の内容として、誤解されかねない点は大いに注意しなければならない。大量リサイクルのために、大量のエネルギーが使われたのでは、持続的発展が可能な社会とはかけ離れたものになることは明らかである。

2. わが国における物質収支

 わが国の社会経済活動を支える資源、エネルギーにかかわる全体的な物質収支は、環境省の推定によれば、図-1のような関係が示されている。大量の物質が国内から産出されると同時に、57.8%の物質が海外から輸入されている。総物質投入量に対する再生資源の割合は12.5%となっている。再生資源の割合は、新たな蓄積が廃棄物になる割合に応じて大きくなるが、この割合を大きくすることが、そのまま良い方向かといえば、必ずしもそうではないことは前述の議論のとおりである。総物質投入量を減少させる方向と再生資源の割合を上げる方向は、必ずしも一致しない点を確認することが必要となる。持続的発展のためには、総物質投入量を削減して行く方向が求められる。

図-1 わが国の物質収支(環境白書平成14年版、図1‐1‐5、環境省ホームページ)

 マテリアルリサイクルにあって重要な視点は、リサイクルに当たっての必要なエネルギーの関係を正しく評価しなければならない点である。アルミニウムと鉄に関しては、表-1のような試算が出されており、エネルギー的にもリサイクルを進めることが有利となる。特にアルミニウムにおいては、回収したアルミ製品は貴重な資源ということができる。しかしこのときでも、品質の点になると再生資源は、原鉱石からの新生素材より劣ることが多く、すべての用途においてリサイクルできるとは限らない点が問題となる。

表‐1 原鉱石から精錬するときに必要なエネルギーとリサイクルにおいて溶融するときに必要なエネルギーの比較(小宮山宏「地球温暖化問題に答える」、p105、東京大学出版会)

物質名 酸化物を還元するときの反応熱 金属の融解熱 必要なエネルギーの倍率
アルミニウム 837.7 10.7 78.3
412 15.1 27.3

 物質の循環再利用におけるエネルギー消費と物質の純度の関係は、図-2のように示される。原鉱石から純度の高い素材を造りだすエネルギー(E1)より廃棄物から同じ純度の素材を造りだすエネルギー(E2)の方が小さければ、マテリアルリサイクルは確実に成立する。アルミ製品、鉄製品ではその要素は強いが、鉄においては、スクラップとして排出される鉄からは高品質の鉄鋼製品を作るのは難しいといわれており、わが国はすでにスクラップの大量産出国になって、国内ではリサイクルとしては消費できず、輸出をしている状況にある。特にプラスチック製品のリサイクルにおいては、どのレベルの素材に、どの程度のエネルギーを使って戻すべきかは、議論が定まっていないのが現状であろう。エネルギーをなるべくかけないで、ペットボトルからペットボトルへ戻せるかがカギとなる。


注:E1よりもE2が小さいときは、リサイクルは理想的に成立する。En2はE1より小さいことが望ましいが、一方で、第n級の純度の低い素材が貯まってしまうのでは、リサイクルは成立しない。

図-2 物質の循環利用におけるエネルギーと素材の純度の関係(松尾友矩「環境学」、岩波講座「現代工学の基礎」9、p.161、岩波書店)

3. 製造過程における循環型社会への動き

1)廃棄物削減策としてのゼロエミッション概念の実践

 各種の製造業の中で一つの目標として語られる概念として、「ゼロエミッション」がある。ゼロエミッションとはものを生産する製造業の中で、ある製造業の廃棄物を別の製造業の原料として再利用し、製造業全体での廃棄物等の環境への負荷を最小限にしようとする考え方である。ゼロの文字通りの意味は、排ガス、排水、排エネルギー、廃棄物を出さないことを意味するが、地域(工業団地などの)あるいは製造業同士のシステムを適切に組むことで、環境への負荷を最小限に抑えることを意味するものと理解すべきものである。ここでも、物質の資源としての再利用に必要となるエネルギーの関係は注意する必要がある。

2)回収・分解再利用を前提とする逆工場システムの発想

 これまでの通常の製造プロセスでは、「原料の調達→製造」を受け持ち、「消費→廃棄」については、あまり関心をもたれていなかった。しかし、現代においては、「原料の調達→製造→消費→分別・回収・分解→再使用・再利用」の循環を製造プロセスの中に取り込む動きが顕在化してきている。この再使用・再利用を念頭においた製造のシステムを「逆工場」と呼んでいる。一部の使い捨てカメラなどの設計においてはそのような観点からのプロセス設計がなされている。この考え方は他の製品分野にも急速に及び始めている。