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武雄市、DeNA、東洋大学の産官学連携で行われた「プログラミング教育」実証研究

武雄市、DeNA、東洋大学の産官学連携で行われた「プログラミング教育」実証研究

2015年6月26日更新
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2014年10月から今年2月まで、佐賀県武雄市、DeNA、東洋大学の産官学連携による「プログラミング教育」実証研究が行われました。武雄市立山内西小学校の1年生39名を対象に、DeNAが教材開発と全8回の「プログラミング」の授業を、担任と連携して放課後に実施。東洋大学は全体の企画と成果の検証を担当しました。このプロジェクトでどのような成果が見られたのか、また今後の産官学連携はいかにあるべきか、DeNAの南場智子取締役・会長と、竹村牧男学長が語り合いました(司会進行/松原聡副学長・経済学部教授)。


オープンソースコミュニティーが活性化。コラボレーションが重要に

― 今回の「プログラミング教育実証研究」は南場さんの発案ですが、取り組みたいと考えられたきっかけを教えてください。

南波会長

株式会社ディー・エヌ・エー
取締役 会長
南場 智子氏

なんば・ともこ 1986年、津田塾大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。1990年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に同社を退社して株式会社ディー・エヌ・エーを設立、代表取締役社長に就任。2011年6月、取締役就任(現任)。

南場 かつてはネットの世界だけで暮らしている「ネティズン」や、ほとんどネットを使わずリアルの世界だけで生きている人がいました。けれども現在では、ネットとリアルの両方の世界で暮らしている人が大多数です。とはいえ、ネットといっても、既存のサービスを使用するだけに止まっているケースが少なくありません。プログラミングのスキルを身につけておけば、自分で新しいアプリなどを創造することができ、将来、どんな分野に進んでも、それぞれの専門領域でITを活用することができるのではないかと考えたのです。当社の第一線で活躍しているエンジニアの多くは、小学生の頃からプログラミングに親しんでいたと語っていますから、高校生、大学生ではなく、小学校低学年を対象としたプログラミング教育をめざしました。
また、私が2011年から2年間、代表取締役を退いていた期間に、ITの世界では1つの変容が進行していました。それは、プログラマーが自分のコードをオープンソースとして公開するのが当たり前の時代になり、賛同者が自由に手を加えていく「オープンソースコミュニティー」が活性化したことです。ところが日本人は、個々人の技術力を競うような場面では優秀なのに、そうしたコラボレーションを苦手とするケースが見られます。そういった状況を鑑みて今回のプログラミングの授業では、コラボする楽しさも味わってほしいと考えました。

― 南場さんは常々、日本人の英語力とプログラミング力の不足を問題提起されています。

竹村学長

東洋大学 学長
竹村牧男

たけむら・まきお 東京大学文学部印度哲学・印度文学科卒業。博士(文学)。専門分野は仏教学・宗教哲学。1975年に文化庁専門職員となり、以降三重大学助教授、筑波大学教授を経て、2002年から東洋大学教授に。文学部長などを歴任し、2009年9月から東洋大学学長に就任

南場 英語はコラボレーションに不可欠なツールです。ITによって、どこにいても世界の仲間と共同作業できる時代なのに、英語力の不足もあって、積極的に取り組もうとする日本人があまりにも少ないのです。今後は、あらゆる分野で、日本人だけで問題解決を図るのは困難な状況になっていくことは確実なのですが……。

竹村 その点は大学にとっても重要な課題です。東洋大学でも、多様な人々とのコラボレーションによって、国際社会にイノベーションを創出するグローバル人財の育成に力を注ぎたいと考えています。その第一歩として、2017年度に「国際学部グローバル・イノベーション学科※」の新設を構想しています。同じく2017年度、赤羽台に「情報連携学部※」も新設予定で、ICTを活用したコラボレーションの推進も図っていきます。

※2015年5月現在設置構想中。学部、学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。


クオリティーの高い作品が多く、見応えがあった「作品発表会」

― 小学1年生にプログラミング教育を行うことで、どのような力の育成をめざされたのですか。

発表会1

2015年2月12日に武雄市で行われた作品発表会

南場 先ほど申し上げたように、ほとんどの人がゲームなどのコンシューマー(利用者)に終始しています。よく誤解されますが、プログラミング技術を習得してもらうことが目的ではありません。まずは自分たちで作ることができるという意識を啓発したいと考えました。その意識があれば、医療、芸術、教育、行政など、様々な仕事に就いたときに、こんなものがあると便利だなという発想が生まれてくるでしょう。

竹村 なるほど。創造力を育成する場になっているわけですね。当然、子どもたちは失敗することも多かったでしょうが、そこから試行錯誤を重ねる中で、自分で考えて作り上げる喜びも体感できたと思います。

― 2月12日の「作品発表会」に参加され、「DeNA賞」「東洋大学賞」「武雄市賞」を授与されましたが、子どもたちの作品の印象はいかがでしたか。

発表会2

「東洋大学賞」授与の様子

竹村 子どもたちが楽しそうに発表している姿が印象的でした。プリミティブなようでいて、よくストーリーも考えられ、ある意味では子どもなりの体系的な宇宙が表現されていると感じ、とても感動しました。「東洋大学賞」は、クリスマスにプレゼントがある家に配られると、その家に灯がともり、その灯がどんどん増えていくというほのぼのとした作品です。他者への思いやりが表現されていて、迷わず選びました。

南場 「DeNA賞」に選んだのは、UFOに爆弾が当たると爆発して消える作品です。児童の「条件分岐」を用いたプログラミングのクオリティーの高さに驚きました。

受賞作品

  DeNA賞



  東洋大学賞



  武雄市賞



― 予想以上の成果が見られたわけですが、その分、私たちには、単発の授業で終わらせず、サポートを継続する責任もあると思います。今後の構想をお聞かせください。

発表会3

南場 実は、授業終了直後の3月、授業に参加した1年生が自発的に「卒業生にプレゼントをしたい」と言い出して、授業で使用しているアプリを活用し、アニメーションを制作しました。6年生全員の写真を取り込んで、バルーンに全員が乗り込むと飛び立ち、「ありがとう」という言葉が流れるアニメです。そうした自主性を高めた子どもたちがさらに成長できるように、今年度、2年生向けのプログラミング教育も開始しました。1年生でも実施クラス数を増やす予定です。


産官学連携推進センターが発足。社会貢献活動にさらに力を注ぐ

― 今回のプロジェクトのどこに意義を感じていらっしゃいますか。

対談の様子

南場 当社としては完全にCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の一環と捉えています。一方で、こうした活動は一定の営利メカニズムが働いた方が持続するし、教材開発企業などの参加者が増えて市場としてスケールするというのが、私の持論です。今回の成果を積極的に情報発信し、将来的には、私学や塾などに同様のプログラムを提供するなど、事業化も視野に入れていきたいと考えています。すでにいくつかトライアルが始まっています。

竹村 大学には教育、研究、社会貢献の3つの使命があります。本学では、そのすべてにおいて産学連携が進行しています。企業との共同研究、委託研究などの研究面は以前から活発でしたが、近年、教育面でも、インターンシップや、第一線で活躍している社会人を招いた講演会などを豊富に設けています。今回のプロジェクトは、東洋大学現代社会総合研究所のICT教育研究の一環であるとともに、プログラミング教育の普及という社会貢献の意味合いも大きかったと思います。本学は、創立者・井上円了があらゆる人々に教育機会を提供するために、全国各地で巡講を行うなど、伝統的に社会貢献を大切にする学風があり、今後も推進していきたいと考えております。その一端を担う「産官学連携推進センター」が今年4月に発足しました。大学は社会から孤絶した存在であってはいけません。大学は基礎研究、企業は応用開発と、研究の軸足はやや異なる面もありますが、コラボレーションによって、より社会に貢献できる成果が生み出せるはずです。

南場 素晴らしい方針だと思います。当社でも大学との共同研究が活発化しています。大学院生も共同研究に関わることで、研究力の向上だけでなく、職業観の育成や豊かな人間性の涵養など、教育面の効果も期待できます。

竹村 ただし、近年の文部科学省の施策を見ると、大学に対して産業界に奉仕する役割を強調しすぎているという懸念もあります。大学とは、批判精神のもとに、現実をきちんと分析して、問題点を洗い出し、新たな指針を打ち出すという純粋な学問研究の場であることも忘れてはいけません。


単純な正解がない困難な状況の中で主体的に考える力を高めたい

― 今回のプロジェクトが高い成果を上げることができた要因は何だとお考えでしょうか。

南場 産官学それぞれうまく役割分担できたことが大きかったと思います。武雄市は2014年度から、市内の全小学校の児童にタブレット端末を配布するとともに、全教室にWi-Fiを整備していました。教育委員会や現場の先生方の協力も大きな力になりました。当社は、そのタブレット端末で動く専用のソフトウエアを開発するとともに、CTOの川崎修平をはじめとする講師を派遣しました。東洋大学にはコーディネートと検証の役割を担っていただいたわけですが、授業を担当した当社自身が評価するよりも、客観的な評価になったと感じています。

― 評価については、よりブラッシュアップする必要性も感じています。武雄市では同じく2014年度から「スマイル学習」という反転授業を導入しています。3年生以上の算数と4年生以上の理科で、自宅でタブレット端末を用いて動画コンテンツで予習を行い、授業は話し合いを中心に行うという方法です。その結果、「スマイル学習」を導入した教科では、前年度より成績がアップしています。一方で、プログラミング教育の場合は、どの教科の成績が向上すれば成果といえるのか、難しい面があります。このような力を高めるという目標を明確に定め、何らかの指標でその力を測定して、成果の見える化を図ることが重要になると思います。
南場さんは、プログラミング教育によって高まる力とは何だとお考えですか。

対談の様子

南場 これまでの日本は、戦後の大量生産、加工貿易立国に則した教育を続けてきました。正解は1つしかなく、その正解を間違えずに解答できるように、知識を覚え込ませる教育に力が注がれてきたのです。それが必要とされた時代にはフィットしていたのだと思追いますが、今の社会では問題の正解が1つとは限りませんし、絶対的な正解がない課題に立ち向かわなければならない局面も増えています。そんなときに、自分で考える力、一歩踏み出す力を備えた人材が求められます。プログラミング教育では、そうした力を高めたいと考えていますし、先ほど申し上げたように、皆で議論して、1つの作品を作り上げるコラボレーションの楽しさも感じてほしいと思っています。

竹村 解のない状況の中で、最適解を見出す力ですね。それから、指示を待つのではなく、主体的に働きかけ、周囲を巻き込む力、さらにはクリエイティブな力の向上も期待できるでしょう。
私は、東洋大学が教育の柱に据えている哲学教育こそが、そうした力を高めるために大いに役立つと確信しています。本学のいう哲学教育は、いわゆる哲学の知識を学ぶわけではありません。既成概念に疑問を持ち、いったん思いこみを解体して、本質的に考えて再構築する──それが「哲学する力」なのです。その力の養成は、今後の教育の重要なテーマになると考えています。

司会進行

松原聡教授

東洋大学 副学長
経済学部教授
松原聡氏

まつばらさとる 1954年、東京生まれ。筑波大学大学院修了。経済政策,とりわけ民営化,規制緩和を専門にしながら,マスコミなどで積極的に発言。 郵政改革(小泉内閣・郵政懇談会委員、通信放送改革(竹中大臣・通信放送懇談会座長)などで政府委員を務めてきた。1996年より東洋大学教授。 2015年4月、東洋大学副学長に就任。

武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)第一次検証報告」

記者会見

2015年6月9日、東洋大学白山キャンパスにて武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)第一次検証報告」の記者発表が行われました。東洋大学副学長の松原聡氏から、検証結果の報告がなされ、武雄市教育長の浦郷究氏、DeNA取締役・最高技術責任者の川崎修平氏から、この報告を受けて、2015年度プログラミング実証研究を1年生2校、2年生1校で行うことが発表されました。また、同席した武雄市長の小松政氏からは、検証報告への感謝と今年度もICT教育を推進していくことが述べられました。

リンク:武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)」第一次検証報告書