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第90回 箱根駅伝 “チーム東洋”の総合力で王座奪還

第90回 箱根駅伝 “チーム東洋”の総合力で王座奪還

2014年3月4日更新

第90回 箱根駅伝 “チーム東洋”の総合力で王座奪還

「その一秒をけずりだせ」。このスローガンのもと、チーム全員の心がひとつになった箱根で、鉄紺の総合力が発揮された。彼らの闘志あふれる走りは、多くの方へ勇気と感動を与えてくれた。2年ぶり4回目の総合優勝までの道のり、選手や監督の思いを、本学卒業生で陸上ライターの石井安里さん(2001年3月社会学部卒)に描いてもらった。

強さを取り戻し、2位からの脱却

選手たちの闘争心を解き放ったのは、
箱根駅伝へかける想い。酒井監督率
いる東洋大チームは、今大会で進化
を遂げた

往路優勝の表彰式。これまで本学が
作り上げてきた記録に自ら挑戦した
結果得られた栄冠

アンカーの大津顕杜(4年)の姿が近づくと、ゴールで待っていた部員たちが一斉に「ケント」コールを始めた。大津は手の甲に書いたチーム・スローガン「その一秒をけずりだせ」の文字を誇らしげに指さし、10人の汗が染みこんだ襷を握りしめると、ガッツポーズでフィニッシュ。2年ぶりの王座奪還だった。

「心が折れそうになったこともあったでしょうが、闘争心あふれる走りで、パーフェクトなレースをしてくれました」と、選手たちを労った酒井俊幸監督。胴上げで3度宙に舞ったが、最後はタイミングが合わなかったのか落ちてしまった。さぞ痛かっただろうが、選手たちが爆笑する姿を横目に苦笑い。彼らのとびっきりの笑顔で、痛みも吹き飛んだのかもしれない。

東洋大の初優勝は、5年前の第85回記念大会。5区山上りの柏原竜二(現・富士通)の大逆転で勝利した。しかし柏原の卒業後、2012年10月の出雲駅伝から13年11月の全日本大学駅伝まで、学生三大駅伝で5大会2位が続いた。今回が柏原のいない東洋大として初の優勝。これまでの勝利とはまた違った総合力での勝利に、酒井監督と選手たちの表情は、喜びだけでなく、自信にも満ちあふれていた。

13年の出雲と全日本を制した駒澤大は、両レースでミスのない、パーフェクトな継走を見せた。ミスのない駅伝は、近年の東洋大の代名詞でもあった。自分たちがやりたかった駅伝を相手にやられてしまったのだ。全日本の敗戦後、主将の設楽啓太(4年)は駒澤大との差を「攻めの気持ち、闘争心が欠けていたし、結束力も足りなかった」と話していた。パーフェクトな駅伝、闘争心、攻めの気持ち、結束力……これまで足りなかったすべてのものを、今回の箱根駅伝で発揮。東洋大らしさを取り戻した。

走力だけでない、「+α」の力

各キャンパスで寄せられたメッセージ
横断幕はレース当日も飾られた

沿道での声援は、選手の原動力とな
っただろう。大手町のゴールには、監
督の予告通り「鉄紺の輪」が歓喜とと
もに広がった

この箱根では、往路、復路それぞれのスタートとなる1区と6区で流れに乗った。1区の田口雅也(3年)はトップと21秒差の3位で襷をつなぐ。6区の日下佳祐(4年)は追ってくる駒澤大との差をさらに18秒広げた。日下が広げた差は、距離にして100mちょっと。

しかし、数秒の差で状況が変わってくるのが駅伝だ。59秒のリードで走り始めた日下が、その差を縮められてしまうのか、1分を超えるリードで7区に渡すのかで、のちに大きな違いが出る。日下の気迫を受け継いだ7区の服部弾馬(1年)は区間賞を獲得。酒井監督が常に意識してきた、復路序盤の6・7区での好発進に成功した。

また、走力以外の面を引き伸ばしたことも、王座奪還への原動力となった。全日本から箱根までの2カ月で、酒井監督は「一度、チームの膿を全部出し切ろう」と改革を敢行した。これまでの敗因は、結束力が欠けていたこと。上級生と下級生の縦のつながり、同級生同士の横のつながり、指導スタッフ、マネジャー、選手間の連携―そのすべてを見直した。

それまで連絡事項の伝達で終わっていたミーティングも、内容や進行方法を改め、特に下級生から上級生への意見が通りやすくした。例えば上級生に対し、生活面で自覚に欠けた行動があったと指摘することもあった。上級生はそれを素直に受け入れ、正した。

一方、なかなか意見を言えなかったメンバーも、積極的にコミュニケーションを取ろうとする上級生に突き動かされ、しっかりと自分の思いを発言するようになった。このコミュニケーションを可能にしたのは“チーム東洋”の組織力だと酒井監督はいう。チームを支える多くの人が橋渡し役となることで、選手同士も歩み寄ることができたのだ。

最強世代から後輩たちへ

1人ひとりに合ったトレーニングと学
年の垣根を越えたミーティングが、
選手層の厚さを生み出した。箱根
駅伝前もこれまで以上にミーティン
グを重ね、意見を言い合ったという

1区を走った田口は、新チームの主
将に選ばれた。設楽啓太から「走り
で引っ張る」主将を受け継ぎ、東洋
大学黄金時代を築いていく

設楽兄弟(後方)、服部兄弟(前方)。
お互いを最大のライバルと言う。会話
こそ少ないが、話さなくてもわかる一
番の理解者だと話す

メンバーから外れた4 年生の存在も大きかった。走れない悔しさをこらえ、サポートに奔走する彼らの姿を見て、チームを代表して走る選手たちが頑張らないわけがない。この4年生たちは、設楽兄弟を中心に、入学当時からチーム史上最も力があると期待されてきた最強世代。そのラストイヤーに、新たな東洋大時代の幕開けを告げる勝利。次代を担う後輩たちに、心の襷はしっかりとつながった。

そして、設楽兄弟から服部勇馬(2年)、弾馬(1年)兄弟へ、Wエースの系譜が受けわたされた。設楽啓太は「服部兄弟はまじめで、競技に対しても意識が高い。これから自分より強くなると思う」と期待を込め、悠太は「この1年、常に服部兄弟を意識してやってきた。いつ抜かれるかと、正直、怖かった」と振り返る。

服部勇馬は「上を見ると、常に啓太さん、悠太さんがいました。結局、追いつくことはできませんでしたが、以前と比べ、練習でも2人との差が縮まったことが自信になりました」と語り、箱根でも2区を3位で駆け抜け、成長を見せた。2区は過去3年、啓太が務めてきたエース区間。啓太を初めて勝負どころの5区に置くことができたのも、勇馬の成長があってこそ。

また勇馬も、3区に悠太、5区に啓太がいることで安心して走れたという。「これからは服部兄弟」と悠太に託された勇馬と弾馬。仲良しの兄弟は最も身近なライバルであり、良き仲間として、強い東洋大を継承していくことだろう。

チームはすでに、新主将の田口を中心に始動。3年生以下の優勝メンバー6人はさらなる進化を求め、また走れなかった選手たちは「次は自分が」という強い決意を持っている。まだ達成したことのない全日本の優勝、そして3冠へ、挑戦は続く。