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TOYO people:生命科学部 応用生物科学科 柏田祥策教授

TOYO people:生命科学部 応用生物科学科 柏田祥策教授

2014年9月30日更新

化学物質が環境生態系に与える影響から
持続可能な自然環境開発と人類の発展を探る

生命科学部 応用生物科学科 柏田祥策教授 
生命科学部 応用生物科学科
生命環境科学研究センター長 柏田祥策 教授

大学院生命科学研究科の研究課題「人為由来環境変化に対する生物の適応戦略と小進化」が、文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択されました。

これにより、板倉キャンパス4号館に「生命環境科学研究センター」が新設されます。

このセンターでどのような研究が行われるのか、研究の意義や可能性について、センター長である柏田教授にうかがいました。

渡良瀬遊水地が新設センターの研究対象に

生きたメダカに骨だけ透ける試薬を施す
メダカは研究上便利な機能を持つ。写真は骨だけを
染める試薬を施し、特殊な顕微鏡で観察したもの。
メダカは生きたまま骨だけが緑色に透けて見える

メダカの卵を顕微鏡で観察
メダカの卵も用途に合わせて染色し観察できる。
左は卵黄だけをグリーンに染めたもの。黒いラインは
血管だ。右は卵の殻を赤い色素で染めている

顕微鏡での観察を大型モニターに映し出す
顕微鏡での観察を大型モニターに映し出して、
話し合うことも

板倉キャンパスに新しく設立された「生命環境科学研究センター」。ここで進める研究が「人為由来環境変化に対する生物の適応戦略と小進化」です。

ここでいう「人為由来環境変化」とは、化学物質が自然環境へ与える影響、例えば水質汚染などです。そして「適応戦略と小進化」とは、その影響を受けて、生物が生き残るために自然選択を繰り返しながら、進化していくことを指します。つまり、本来生物にとっては害となる物質に対して、生物がどのように耐性をつけ、進化していくのかを探るのです。

この研究の具体的なテーマとして私が選んだのが、渡良瀬遊水地における生物の進化、そして、抗生物質が河川の生態系に及ぼす影響の2つです。

ひとつ目の舞台となる渡良瀬遊水地は、東洋大学板倉キャンパスから2kmの近隣に位置します。調査対象が近いことは、研究を進める上で大きなメリットとなっています。渡良瀬遊水池の生態系は、過去に足尾銅山の影響を受けたにも関わらず、現在はラムサール条約※にも登録されるほど、豊かな生態系を有する湖沼として生まれ変わっています。

しかし、ここの生態系をつぶさに観察してみると、「人為由来環境変化」の影響、つまり、化学物質への適応による、何らかの進化が見られるのではないか、と考えました。そこで季節ごとに渡良瀬の微生物、藻類、動物プランクトン、魚などを採取して調べています。比較対照としては、同じくラムサール条約に登録された新潟県の佐潟という非常にきれいな湿地を選びました。

これは予備調査を3年ほど行っており、すでに9月の学会で学生が発表、来年度には論文を発表できる予定です。また、2015年5月にノルウェーで開催される「汚染物質に対する水生生物の応答」という国際会議でも発表を予定しています。私はこの会議の国際実行委員を務めています。

人間活動によって影響を受けた生物に関しての生化学的な研究事例は多数ありますが、影響を受けた後に再生された環境生態系について、生物進化に基づいた詳細な研究例は今までにないことから、われわれの研究は今後注目されると思います。

※ラムサール条約:水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守る目的で制定された国際条約

あるべき生態系の指標をつくる

研究室で飼育しているメダカ
メダカは育成ごとに管理
研究室では成育ごとにメダカを管理。
膨大な数のメダカが飼育されている

一方、抗生物質に注目した研究では、都市河川の江戸川を対象として設定し、そこにどの程度の抗生物質が存在するか、また、細菌叢(そう)や水生生物にどのような影響があるかなどを調べます。この場合は、河川の水に含まれる抗生物質が「人為由来環境変化」に当たります。ひとつの影響として、抗生物質の効かない細菌が増えることが挙げられます。人間の排泄物などから排出された抗生物質が下水を経て河川に流れ込み、それらに耐性を持った病原細菌が選択的に生まれてきていると考えられるのです。海外では、野鳥の腸内細菌を採取してみると、すでに抗生物質が効かない種類も出てきているという報告もあります。

渡良瀬遊水地では、過去100年間の時間の流れの中での生物の環境適応(生物進化)を調べる。また抗生物質に関する研究では、これから起こるであろう未来の生物の環境適応を、過去の渡良瀬の事例を参考情報として活用しながら予測できないかと考えています。

人類の発展にとって必要な持続可能な自然環境の開発とは何なのか、また本来あるべき生態系とは何なのか。研究を通して、未来の子ども達に良い環境を残すための一里塚、指標を残してあげられたらと思っています。

「化学物質が生態系に与える影響」が生涯の研究テーマ

学生は顕微鏡でメダカの受精卵を観察
学生は研究室につくとまず、数百個ものメダカの卵を
顕微鏡で観察、受精卵を分けていく

採取し、液体窒素で凍らせていく
採取してきた魚はすぐ解剖して、液体窒素で凍らせ
マイナス80℃で保存していく

私は、化学物質の生態影響や生物進化に与える影響についての研究を専門分野としています。

現在取り組んでいる研究のひとつに、ナノ・トキシコロジー(ナノ毒性学)があります。「ナノマテリアル」といって、現在、さまざまな物質がナノ化、つまり非常に小さい粒子の状態に加工されて使われています。とくに「銀ナノ粒子」は、世界市場に出回っているもののおよそ5割を占めているといわれ、日常生活のなかの至るところに存在しています。銀そのものに抗菌性があるので、そのための製品などに使うわけです。

ナノマテリアルについては、国際的にもその環境影響が注目されており、現在、ISO(国際標準化機構)、OECD(経済協力開発機構)などにおいても評価が進められています。私はISOのナノマテリアル環境部門における日本の代表研究者として、その評価に参画しています。

さまざまな経験を積んで、豊かな学生生活を

柏田祥策(かしわだ しょうさく)

私の指導は良い事はすぐ誉めるし、悪いと思えばはっきり伝え、時には厳しく叱ることもあります。そのため、学生一般には「怖い先生」として知られているようですが、私の研究室の学生は必ずしもそうは感じていないようです。

学生時代の趣味は旅。電車で野宿旅行したり、バイクで貧乏ツーリングしたりと楽しく過ごしていました。また学部生時代は、バイト(家庭教師、フランス料理店ウェイター、工事現場まで20種類くらい)やサークル(混声合唱団と空手道)を楽しんだり、大学生協の学生代表などをした学生時代の思い出がたくさんあります。でも、卒論研究が始まってからは生活そのものが研究一色です。

学生時代は、本当に多くの様々なことで周囲に指導してもらえる最後のチャンスです。ぜひ自分に厳しく、さまざまな経験をして失敗を重ねて、実り多い大学生活を送ってほしいと思います。

プロフィール

柏田祥策(かしわだ しょうさく)

島根大学農学部環境保全学科卒業。博士(鳥取大学・農学)を経て、1996年、新日本気象海洋株式会社(現いであ株式会社)・研究員、2000年、米国Duke大学・環境スクール・博士研究員(David E. Hinton教授)、2003年、独立行政法人国立環境研究所・化学物質環境リスク研究センター・任期付研究員、2007年、米国サウスカロライナ大学・公衆衛生大学院・環境健康科学部・客員教授兼研究教授、米国サウスカロライナ大学・ナノセンター・主任研究員。2010年より現職。2014年開設の「生命環境科学研究センター」センター長を務める。

サイト生命科学部