1. トップページ >
  2. Close-up! > 2014年度 >
  3. Close up!旬な取り組みを紹介:新しい日本社会のあり方を、公共建築で提案する「ソーシャルデザイン・プロジェクト」
Close up!旬な取り組みを紹介:新しい日本社会のあり方を、公共建築で提案する「ソーシャルデザイン・プロジェクト」

Close up!旬な取り組みを紹介:新しい日本社会のあり方を、公共建築で提案する「ソーシャルデザイン・プロジェクト」

2014年10月6日更新

新しい日本社会のあり方を、公共建築で提案する
「ソーシャルデザイン・プロジェクト」

理工学部建築学科では、実践的な設計教育プログラムの一環として、地域の課題に対応する次世代の公共インフラの構築をめざす「ソーシャルデザイン・プロジェクト」を「鶴ヶ島」「大宮東口」「川越」の3か所で展開しています。
こうしたプロジェクトは、未来の日本の建築や社会にどんな新風を巻き起こすのか?
建築学科・藤村龍至講師に、プロジェクトの概要と可能性について伺いました。

理工学部建築学科ソーシャルデザイン・プロジェクト

2014年7月に開設されたさいたま市の情報発信の場「まちラボおおみや」。
ここで理工学部建築学科は活動に協力していく

もはや「拡大」の時代ではない

建築学科 藤村龍至 講師
建築学科 藤村龍至 講師

人口減少、高齢化、市街地の衰退など、今、日本は様々な問題を抱えている。公共施設のあり方もそのひとつです。たとえば高度成長期に一気に人口が膨れ上がった郊外都市では、かつて大量につくられた公共インフラが一斉に老朽化し、建て替えを迫られています。しかし、住民の高齢化や流失、それに伴って予想される将来的な財政危機を考えると、もはや拡大開発路線の時代ではない。施設にかかわる維持管理費を抑えつつ、住民のニーズを満たして未来につなぐには、いったいどんな施設をデザインすべきなのか……。これが、全国の自治体共通の悩みとなっています。

東洋大学川越キャンパスの最寄り駅「鶴ヶ島」を擁する埼玉県鶴ヶ島市も、まさにそんな課題に直面していました。
そのような時に、プロジェクトの発端となった一つの出会いがありました。

「鶴ヶ島、なう」

川越キャンパスに向かう車中でつぶやいていた、藤村講師のツイッターがきっかけで、鶴ヶ島市長とのご縁がつながりました。
「私は東洋大学に着任したばかりで、4年生向けの課題を何にすべきかと考えているところでした。そして市長は公共施設に関する難問を抱えていた。そこで、建築学科の学生がアイディアを出して新しい施設の提案ができないかという話に発展したのです。」

第一歩は「鶴ヶ島プロジェクト」から

具体的には、築50年近くになる鶴ヶ島市内の小学校と公民館、この2つの建物を統廃合して、床面積を30%カット。その上で、これからの時代に合った新しい施設を設計する。あくまでも学生が授業の一環として行う実験的な提案ですが、前提条件は行政側の公開情報に基づく実際に即したもの。学生にとっては、机上の空想ではない実践的な設計過程を体験できるチャンスになり、市にとっては、これが問題解決の突破口になる可能性もありました。

こうして2012年、ソーシャルデザイン・プロジェクト第1弾「鶴ヶ島プロジェクト」が立ち上がりました。

「市のインフラを統廃合するというと、実際は必要なことでも、やはりネガティブなイメージになりがちです。これを行政の側が言い出せば、『そんな悲観的でどうする』と、住民の方々からお叱りを受けることもあるでしょう。けれど、『学生さんが考えたことだから』となれば、みなさん聞く耳をもってくださるんですね。」

先進的だった、住民参加のオープンプロセス

鶴ヶ島の住民の方々にプレゼンテーションを行う学生たち
鶴ヶ島の住民の方々にプレゼンテーションを行う
学生たち
パブリックミーティングを重ねて練り上げられた提案
パブリックミーティングを重ねて練り上げられた提案を
模型にし、住民の方々へ説明していく
大学で設計を行い、2014年に竣工した「eコラボつるがしま」
大学で設計を行い、2014年に竣工した
「eコラボつるがしま」

ただし、単に「学生さんが考えたこと」に終わらせなかったのが、「鶴ヶ島プロジェクト」の独自性でした。

アイディアを練り上げていくプロセスは、すべてオープンとし、住民の方々に参加していただいてのパブリックミーティングを全5回にわたって開催。学生はその都度アイディアを模型でプレゼンテーションしました。

最初は“若い人の発表会”の認識だった参加者も、「ここは、こうしたほうがいい」などの意見が、次回には、目に見える形で学生からフィードバックされる体験を通し真剣味が増し、また、毎回投票によって自分の作品が評価されることで、学生たちのモチベーションも高まりました。

こうして、行政、住民、大学が互いにコミュニケーションを取りつつオープンプロセスで設計を進める「鶴ヶ島プロジェクト」は、ソーシャルデザインの先進的な形として、マスコミでも話題を呼び、2013年には、ついに実際に建てられることを前提とした実施プロジェクトとしてスタートしました。同年、鶴ヶ島市の工場跡地に設置された「鶴ヶ島太陽光発電所」に隣接する環境教育施設「eコラボつるがしま」の設計も、建築学科大学院生の設計演習の一環として、パブリックミーティングを取り入れた同様のオープンプロセスで行われました。

日本列島再構築の切り札

「大宮公園改修構想」に取り組む学生たち
Jリーグ・大宮アルディージャの本拠地「Nack5スタジアム」の建て替え計画
「大宮公園改修構想」では、Jリーグ・大宮アルディージャの本拠地
「Nack5スタジアム」の建て替え計画を学生たちが練り上げる

2012年12月、笹子トンネル天井崩落事故があったこともあり、こうした公共インフラの更新や縮小・統廃合は、国をあげての急務となりました。この「鶴ヶ島プロジェクト」が評判となったのがきっかけで、「大宮東口プロジェクト」、「川越プロジェクト」と、プロジェクトはさらに広く展開されることになりました。

本年、国の青写真に従って策定された川越市の「公共施設等総合管理計画」に沿った調査研究を、東洋大学が正式に委託されました。連携するのは、公共施設のあり方をはじめとする地域再建問題に取り組む本学「PPP(公民連携)研究センター」。「センター長の根本祐二教授(経済学部)は、公共施設マネジメントの分野のオーソリティ。非常に心強いです。」と、藤村講師は語ります。川越では、観光都市という特徴をふまえながら、新たな公共施設像を提案していく予定です。

「鶴ヶ島プロジェクト」で最初の一歩を踏んでから4年。現在、川越と並行し、「鶴ヶ島中央図書館」改修計画、大宮では、市立博物館を中心とした観光文化施設「おおみやミュージアム構想」、県営球場とNack5スタジアムの建て替えを想定した「大宮公園改修構想」など、いずれも長期的ビジョンに立った大がかりなプロジェクトにも取り組みはじめました。

「縮小はネガティブではなく、新たな日本列島再構築の切り札なのかもしれない。そこで建築の果たす役割は何なのか? 今、学生たちはプロジェクトを通して未来を模索しています。」


プロフィール

藤村龍至(ふじむら りゅうじ)

建築家。「藤村龍至建築設計事務所」代表取締役。2002年、東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。東京理科大学、ブリティッシュコロンビア大学、日本女子大学などで非常勤講師を勤めた後、東洋大学建築学科専任講師。建築デザイン分野での受賞歴多数。


サイト理工学部

サイト鶴ヶ島プロジェクト2014

サイト大宮東口プロジェクト2014(Facebook)