応用化学科

持続可能な社会の実現に応える化学。

大気環境科学研究室(反町篤行 教授)

大気-陸域におけるガス・粒子状物質の環境動態に関する研究

大気汚染物質には、植物や土壌中の微生物の生命活動などによる自然起源および自動車や工場などによる人為起源があります。大気汚染物質は拡散や反応・変質などを介して最終的には森林や土壌などの地表面に大気沈着します。この大気沈着は大気汚染物質が水滴に溶け込んで雨や雪などの形で地表面に沈着する現象(湿性沈着)と、ガス・エアロゾルとして直接地表面に沈着する現象(乾性沈着)があります。本研究では、大気汚染物質(硫黄酸化物、窒素酸化物、オゾン、揮発性有機化合物(BVOC)など)および大気プラスチックなどの環境汚染物質に関して、大気-陸域におけるガス・粒子状物質の放出・沈着過程の解明を目指し、(1)フィールド観測、(2)モデル実験、(3)測定・分析法の開発に取り組んでいます(図1)。本研究で着目している環境汚染物質は地球温暖化、酸性雨、大気汚染、プラスチックなどの環境問題に関係しています。

図1. 本研究の概要図

(1)フィールド観測

本研究では、日本の国土の約7割は森林であることから、主に森林に着目してフィールド観測を行っています。フィールド観測では、観測鉄塔(図2)を用いて大気汚染物質および大気プラスチックの放出・沈着量を測定しています(図3)。また、大気プラスチックに関しては、建物の屋内における空気中プラスチックの実態調査やプラスチック劣化試験なども実施しています。

図2. 観測鉄塔
図3. 森林における大気沈着測定

(2)モデル実験

フィールド観測において環境問題のメカニズムを調査する場合、観測期間中に環境条件などが変化するため定量的な評価は難しい。本研究では、実験室において一定な環境条件で実施するモデル実験により土壌を介した大気汚染物質の放出・沈着メカニズムについて調査しています(図4)。
大気プラスチックはその濃度が低く、他の物質と分離することが難しいため、その試料を用いた健康影響や物理化学的特性などは不明です。そのような問題点を克服するため、汎用プラスチックを用いたモデルプラスチック粒子の合成を試みています(図5)。合成後、モデルプラスチック粒子を健康影響評価実験、環境中における劣化試験、前処理条件の検討などに使用しています。

図4. 大気汚染物質の放出量測定
図5. モデルプラスチック粒子の合成

(3)測定・分析法の開発

大気汚染物質の放出・沈着量を高精度に測定するため測定装置や測定手法などの開発を行っています(図6、7)。また、フィールド観測によりサンプリングしたプラスチック試料を機器分析により高精度で測定するため、分析前に不純物を取り除く前処理法(有機物分解など)などの最適な条件も検討しています。

図6. 林床での放出・沈着量測定
図7. 土壌からの放出量測定

この研究室を希望する方へ

環境問題を取り組む上で、環境問題が起こっているフィールドを積極的に体験し、実際にフィールドでは何が起こっているのか、私たちが環境問題の解決に何ができるのか、具体的に問題意識を持つことは大切です。まずは環境問題に興味を持ち、失敗を恐れずに色々とチャレンジして研究を楽しんで下さい。フィールド研究は個人としての側面とチームとしての側面があり、また自然環境を相手にしますので予期し得ないことが起こります。そのため、フィールドを環境教育の場と考えて、フィールド研究を通じて、是非とも主体性、協調性、適応性などを高めてもらいたいと思います。