私たちの脳は、五感(嗅覚、触覚、視覚、聴覚、味覚)の刺激を受けて、固有の情報が脳に運ばれ、異なる感覚情報を統合して、外界に対する知覚をしています。「感覚統合」は、動物が生きるうえで基本的かつ重要な機能であり、それにより生存を有利にしています。複数の違った感覚情報が脳の中で個別に処理されますが、脳のどこで、そしてどのようにして感覚統合が行われているかという詳しい責任領域や、神経回路メカニズムはわかっていません。ヒトと遺伝子学的に類似度が85%以上と言われる「マウス」を使って、現在行っている脳を詳しく調べる実験では、マウスを使うことで神経回路まで詳しく調べることができ、遺伝子工学のツールを使って都合のよい「遺伝子組換えマウス」を作ることができるのです。研究では、神経興奮が起こるとニューロンが光るようにした「遺伝子組換えマウス」を使って、脳全体を高感度カメラで撮影し(広域イメージング)、感覚統合の責任領域がどこにあるかを一度に調べました。これは「カルシウムイメージング」という原理で、オワンクラゲ(光るクラゲ)の緑色蛍光タンパク質(GFP)を利用した技術です。これらの研究によって、まずヒトでは詳しく調べることのできない感覚統合の神経回路メカニズムの解明につながります。そして、研究で扱った徐波振動成分は脳血流変動と相関しているため、これによりヒトの機能的MRI信号との関連や、ヒトの感覚統合のメカニズムとの関連が議論できます。さらに、感覚統合の破綻は、統合失調症などの精神疾患や発達障害などに関連していると言われ、それらの発症のメカニズムの解明や、治療法の開発につなげていくことが期待できるのです。

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吉田 崇将助教理工学部 生体医工学科

  • 専門:神経科学、脳機能イメージング、生体信号処理
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