この講義では、ユニバーサルデザインとは対照的な「ヴァナキュラーデザイン」について考えます。ヴァナキュラーとは、「その土地固有の」建築や集落景観、「日常的な」技術体系のことをいいます。例えば、アルプス山麓にあるスイスのソーリョ村に見られる石と木の村の景観もその一つです。この村の家畜小屋は、標高に応じて異なる植生に合わせ、建物の素材や機能を変えています。ヴァナキュラーデザインとは、「機能×素材×場所の特性」によって成り立つと考えられます。さらに身近な例を探すと、東洋大学のある朝霞キャンパス周辺に点在する野菜スタンドのある風景もヴァナキュラーデザインの象徴といえるでしょう。都心から30キロメートルほど離れた朝霞にある野菜スタンドは、市街化が進んだ駅周辺ではなく、農地と住宅地が混在している地域に分布しています。また、野菜スタンドの形は場所によって大きく2つに分けられます。農家の母屋に近い場所には、陳列した野菜をお客さんが手に取って見ることができる平置きの「オープン型」、大通りに面した場所には、お金を入れると野菜を取り出せる「ロッカー型」です。あるオープン型の野菜スタンドを調べると、商品、集金箱、値札、監視カメラ、照明、メッセージボードで構成されていました。オープン型の野菜スタンドでは、生産者とお客さんが挨拶を交わしたり、商品に関するやりとりが生まれたりするなど、地域の人とのコミュニケーションが生産者にとって野菜スタンドを続けるモチベーションになっています。言葉を交わさない場合でも、メッセージボードに「台風の中で頑張った野菜です」などの情報を添えることで、お客さんが繰り返し通うようになるなど、生産者はお客さんを引きつける工夫をしています。スイスの事例では、自然環境が大きな要素でしたが、朝霞の野菜スタンドでは、「機能×素材×場所の特性」に加え、どのように地域の人と関わるかという、「農家(生産者)の気持ち」も重要な要素となっているのです。

pf-higuchi.jpg

樋口 貴彦助教ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科

  • 専門:建築学、建築計画、木造構法
  • 掲載内容は、取材当時のものです