引きこもりの人や認知症などが原因でセルフネグレクト状態にある高齢者、ホームレスの方々は、自ら助けを求めることが難しく、社会の中で孤立する傾向にあります。そのため精神保健医療福祉の分野では、困っている人ほど必要なサポートにつながらないことが問題になっています。欧米諸国では、この問題を解決するためにACT(Assertive Community Treatment)を実践しています。これは、メンタルヘルスに問題を抱えた人に対し、医師、ソーシャルワーカー、看護師、心理士、作業療法士などの多職種がチームを組んで、24時間365日体制でアウトリーチ(訪問)を中心とした支援に取り組むことです。日本では2003年より、千葉県市川市の「認定NPO法人リカバリーサポートセンターACTIPS」が、地域で孤立したり、入院を繰り返したりして、居住状態が不安定な人へのアウトリーチ支援活動を研究事業として開始しました。その後、ACTの活動は全国20カ所で展開されていますが、人口あたりで換算するとまだまだ数が少ない状況です。活動が思うように広がらない背景には、アウトリーチ支援活動を支える財政的な制度基盤が十分でないことが挙げられます。そこでACTに関わる研究者は、ACTの実践者や厚生労働省と協力しながら、実際に多職種アウトリーチ支援活動を3つの地域で展開し、1年間追跡して効果を検証する研究を行いました。その結果、利用者さんのQOL(Quality of Life)を示す得点が、2.7点から3.0点に上昇するなど、特に重い症状の利用者さんにとって、生活の質が改善することがわかったのです。それを受けて2014年に、重症精神障害者早期集中支援管理料(現:精神科在宅患者支援管理料)が新設され、多職種アウトリーチ支援活動を行うための診療報酬システムが確立しました。しかし、対象者の適用範囲が狭いなど、制度的には不十分な点があります。引き続き日本では、アウトリーチ支援活動を広げていくための方法や社会のあり方を考えながら、実践を通して検証を続けていくことが求められています。

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吉田 光爾教授福祉社会デザイン学部 社会福祉学科

  • 専門:精神保健学、アウトリーチ支援、量的研究による精神保健福祉サービス評価
  • 掲載内容は、取材当時のものです