私たちは、1日のうちにたくさんの選択をしながら生活しています。その選択には、自己完結する「私的な選択(private choice)」と、他人に利害得失を発生させる「公的な選択(public choice)」があります。経済学では、公的な選択によって他人の利害に影響を及ぼすことを「外部性」と呼びます。例えば最近では、新しい公害の一つである「香害」が問題になっています。洗濯する時に、香りのする洗剤や柔軟剤を好んで使う人が増える一方で、香料に含まれる微量な化学物質によって頭痛、めまい、咳き込み、皮膚のかゆみなどの症状を訴える人が増えているのです。この健康被害を受けて、2009年には「化学物質過敏症」が病名登録され、治療には健康保険が適用されるようになりました。ある研究では、日本人の13人に1人が発症するといわれ、決して他人ごとでは済まされない社会問題なのです。しかし、実際にはエビデンスが確立されていないため、十分な対応ができていません。このような問題を改善するためには、まずは私たち一人一人が、公的な選択を意識して、自分自身の自由を制約していく必要があります。選択を制約する方法には、取り締まりや刑罰による「法律」、課税などの価格メカニズムを利用する「市場」に加え、道徳教育や説得による「規範」、社会の設計自体を変える「アーキテクチャ」があります。「法律」や「市場」を今すぐ変えることは難しくても、私たち一人一人が正しい情報を基に、責任を持って選択することはできます。多くの人は、「Publicとは何か?」と問われると、国家や政府をイメージしがちです。しかし、必ずしも国家や政府が私たちの望む社会を実現してくれるわけではありません。だからこそ、私たちは「より良い社会とは何か?」を考えながら、まずはできることから少しずつ積み重ねていくことが大切なのです。

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川瀬 晃弘教授経済学部 総合政策学科

  • 専門:財政学、公共経済学
  • 掲載内容は、取材当時のものです