糸状菌とは、カビのことです。一般的にカビというのは、「糸状の構造をとる真菌の仲間」のことで、菌糸こそが“カビのカビたるゆえん”だと言えます。きのこをはじめ、ビールやパンに欠かせない酵母などはカビの仲間です。これらのカビには、食味を落としたり、カビ毒を生産して人や家畜の健康を脅かしたりするといった問題点があります。カビ毒は、一般的に熱に強く、分解されづらいうえ、いったん生産されると取り除きにくいやっかいなものです。特に、ピーナツに生えるカビで、天然化合物のなかで最強の発がん物質と言われる“アフラトキシン”は、肝臓がんを引き起こし、急性毒素も持っています。これまでに5億人が健康被害を受けていると言われます。アフラトキシンは発がんを防ぐのが非常に難しく、多くの研究者が阻止しようと、さまざまな研究やプロジェクトを進めています。しかし、悪い面ばかりではありません。まず、麹菌というカビから、日本の食の基本である醤油や味噌が作られています。そして、有名なのは薬です。1928年フレミング博士が青カビから世界初の抗生物質ペニシリンを発見しました。また、カビはたくさんの二次代謝産物を作る能力を持ち、カビの生産物自体を薬剤などに使える可能性があります。遺伝子組み換え技術によって、カビ本来の作る産物以外の物質を生産できる可能性などもあり、さまざまな応用利用によって、高価で希少な物質を作ることができるかもしれません。みなさんにもぜひ、糸状菌の能力に興味を持っていただきたいものです。

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安藤 直子教授理工学部 応用化学科

  • 専門:食品化学・生化学、食品の安全性向上に関する研究
  • 掲載内容は、取材当時のものです