2300年前に中国で書かれた『荘子』には、「機械があると必ず機事あり。機事があると必ず機心あり」という言葉があります。これは、孔子の弟子の子貢が、出会った農夫に効率化のため、機械を使うことをすすめると、「機械によって余計な仕事が増えるし、機械に頼って純白な心が奪われて心が落ち着かなくなり、人の道を外れるので、使わない」と言われ、おせっかいをしたことを恥ずかしく思った、というお話です。この「機心」について、思想家の安岡正篤は、人間は「機械化する傾向」と「創造する能力」を持ち合わせ、独創性の源泉である理性・内省・努力を失うほど機械化し、決定が他律的で無責任になる、と哲学的に解釈しています。1800年間変化がなかったコンピュータの性能は、AIの発達で一気に進化し、この70年で一兆倍も上がりました。みなさんは、インターネットの情報を信じ切っていませんか? 自分で考えたり、友人と議論をしたりしなくなったのではないでしょうか。当てはまる人は「機心」になっていると言えます。いずれはコンピュータが人間の脳を超え、人間の手を必要とせず、自分で自分を開発し始める「シンギュラリティ」がやってくるとも言われています。わからないのにわかったふりをし、そのまま信じ込んで自分を見失ってしまう前に、一度止まって省みましょう。AIやロボットのブームに流されず、良いところ、悪いところを吟味して行動に表し、問題意識を持って将来を考えていきましょう。

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吉田 善一教授理工学部 生体医工学科

  • 専門:工学、ミクロ・ナノ流体素子の開発
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