人(哺乳類)の脳は、学習するという面では高い柔軟性がありますが、損傷や老化によって神経細胞が失われた場合や、生殖に関する神経回路が変更できないなど、機能回復については柔軟性が低いと言えます。それに対して魚の脳は、学習能力は低いものの、損傷の回復が早く、生殖に関する神経回路の変更など、柔軟性が高いと言えます。魚類の損傷の回復が早いのは、魚の脳に、広い範囲に神経を作り出すことができる“神経前駆細胞”が多く存在しているということが挙げられます。哺乳類でも、胎生期には神経前駆細胞が脳に広く分布していますが、成体になると、海馬、脳室下帯といった一部に局在するのみとなります。また、生殖に関する神経回路の変更については、例えば群れの中で一番大きい個体がオスになり、その群れからオスがいなくなったら、次に大きいメスがオスになるという、成長や環境によって性転換する種類や、人為的に雄性ホルモンを注射すると、成熟したメスがオスの行動をするようになる種類もいます。つまり、脳も性転換をするということです。これは、脳に存在するいろいろな種類のニューロン(神経細胞)の中で、オスの生殖行動を調節すると言われている“GnRH3(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン)産生ニューロン”が、ホルモンによって増加したことで、神経の新生が起きるからだということがわかりました。こうした発見は、面白い!というところから出発しています。その気持ちを大切に、生き物の不思議さや面白さを知り、人や医療などへの応用など、これまでと違う発想につなげていきましょう。

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金子 律子教授生命科学部 生命科学科 神経機能制御研究室

  • 専門:神経科学、神経解剖学・神経病理学、脳神経科学、神経科学一般、基礎生物学、動物生理・行動
  • 掲載内容は、取材当時のものです