最近よく見られる「抱き合わせ販売」とは、ある商品(主たる商品)に、特定の別の商品(従たる商品)をつけて売る商法です。メリットとして、別々に買う手間が省ける、商品間に技術的親和性がある、といった利用者の利便性向上と、ひとつの企業が両方の商品を生産・販売するほうが、別々に生産するよりも安く済む、範囲の経済性が挙げられます。一方デメリットとして、不用品の押しつけや競争相手排除の可能性が挙げられます。ここでは、抱き合わせ販売が独占禁止法違反とされた例として、「日本マイクロソフト事件」を紹介します。マイクロソフト社は1995年頃、表計算ソフト市場で支配的地位(シェアが1位でしかも圧倒的)にあった、主たる商品のエクセルと、あまり人気のない従たる商品のワードを抱き合わせて販売しました。それにより、当時、ワープロソフトとしてシェア1位だったジャストシステムの「一太郎」のシェアが激減し、大きな打撃を与えました。もともと経済学では、企業同士の競争を、お互いが切磋琢磨し、より良いものをより安く顧客に提供しよう、とプラスに捉えます。しかし、抱き合わせ販売による競争相手排除は、商品の質や価格における競争ではないという判断がなされました。つまり、あるべき競争が起きず、公正な競争とは言えないことから、独占禁止法違反とされたのです。抱き合わせ販売は、プラス面とマイナス面とを持ち合わせています。プラス面を評価しつつ、長期的に見て公正な競争が行われているかどうかを、注意深く見ていく必要があるでしょう。

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吉田 明子教授経済学部 経済学科

  • 専門:産業組織論、競争政策
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