孟子の生きた戦国時代は、戦争が日常化し、殺人と奪略が繰り返されました。人間性が極度に貶められ、挫折し、人々は「人間とは何か」、「人間が生きる意味とは何か」を考えました。そこで孟子が出した答えが「性善説」です。為政者の徳によって国を治めるのが正しく、大切なのは仁義だと主張し、武力統治によって乱れた国政を“率獣食人(獣を率いて人を食わしむ)”と表現しました。政治家たちの家にはたっぷりの肉と肥えた馬がいる一方で、人民は飢えに苦しみ、行き倒れている。これでは間接的に食人のようなものだ、と、かなり強い表現を用いたのです。孟子は、人類が滅びてしまわないよう、人と人との信頼を基盤に据えた社会の構築を目指し、互いに助け合い利他的であろうとすることこそが人間の本性なのだと訴えました。
では、今の世の中はどうでしょうか。格差が広がり、飽食と飢餓が背中合わせだと言われるのはなぜでしょう。先進国が肉をたくさん食べるため、家畜に与える穀物の需要が広がり、途上国の人々に穀物が行き届かない状況が地球規模で起こっているためです。こうした、見えないところで加害者になっている構造的暴力は、まさに孟子の言った“率獣食人”ではないでしょうか。孟子の書をただ読むだけではなく、その時代からの問題提起として受け取り、私たちが何をして、どのような社会を作っていけばよいか、孟子に問いかけ、問題解決の道を模索していきましょう。

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小路口 聡教授文学部 東洋思想文化学科

  • 専門:中国哲学・宋明儒学
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