日本とスリランカ(旧セイロン)は、戦後サンフランシスコ平和条約発効を機に国交を樹立しました。後に大統領となるジャヤワルダナは、サンフランシスコ講和会議にセイロン(現スリランカ)代表として出席した際「憎悪は憎悪によって止むことなく、愛によって止む」という『法句経』にある仏陀の言葉を引用し、スリランカの賠償請求権を放棄、日本を国際社会の一員として受け入れるよう訴えました。この演説は拍手に包まれ、そこから会議は一変、日本の賠償の多くは免除されることとなり、急速な経済的発展へとつながるのです。私たちが享受している現在の繁栄は、一人の若き政治家の善意が大きく影響していることを忘れてはなりません。
実はアメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)が起きたとき、ダライ・ラマ14世はブッシュ大統領(当時)に『法句経』のまったく同じ言葉を送っていました。しかしブッシュ大統領が受け入れることはありませんでした。以来、中東での争いは今も続いています。また、2015年11月にパリで起きた同時多発テロの犠牲となり妻を亡くした仏人ジャーナリストは、SNSでテロリストに向けて「君たちに憎しみという贈り物はあげない」とつづりました。これも『法句経』の言葉と同じ意味、同じ思想です。
このように、「言葉」は受け入れる人によって多様に変わりうること、そして未来の生き方や社会に対しても影響力を持つことを知り、言葉を発信する大切さや、受け止めた言葉をどのように生かしていくか、考えていただきたいです。

pf_watanabe.jpg

渡辺 章悟教授文学部 東洋思想文化学科

  • 専門:インド仏教、初期大乗仏教、般若経、中観思想
  • 掲載内容は、取材当時のものです