dispositionには「気質、性質」のほか、「配置、配列」という意味があります。この1つの単語にまったく異なる2つの意味がある原因は、占星術にあります。
Oxford English Dictionary(OED)には、dispositionは占星術の中で惑星の位置や星の配列という意味で使われ、さらにホロスコープ上の生まれたときの惑星の位置を知れば、その人の性質がわかると考えられていた時期があると記されています。つまり、占星術というコンテキスト(文脈)を媒介にして、「配置、配列」という意味しか持たなかったdispositionに、「気質、性質」という意味が現れたのです。そのため、その時期(ルネサンス、アーリーモダン)に活躍した劇作家シェイクスピアの『リア王』の一節、「his goatish disposition」には、「彼の好色な性質」という一般的な訳のほか、実は「山羊座の配列」という意味も含まれているのです。
ことばとその意味の関係について本当に正しく捉えるためには、わずかな接点を介して並ぶ「ひまわり型」ではなく、1つのことばを中心に同心円状にその意味が囲み、成長していく「年輪型」で考えることが大事です。その上でOEDをひもといて、そのことばの興味深い歴史や年輪を知っていただきたいと思います。

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田中 一隆教授文学部 英米文学科

  • 専門:英文学
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