「知識」と「現実感」、この2つは簡単に折り合わないことがあります。たとえば私たちは朝日を見て「太陽が昇る」ととらえます。これが「現実感」です。しかし実際に回転しているのは地球のほうです。これが地動説に基づく「知識」です。
しかし、宇宙は現在も膨張し続けているので、止まっているものは太陽も含め何ひとつないということになり、「地球と太陽どちらが動いているか」という問いそのものが成立しなくなります。つまり、地球を視点にすることと太陽を視点にすることは、どちらも成立するし、対等なのです。
太陽の位置からほかの星の動きを見たことがある人間はいないにもかかわらず、地動説は理論として理解している。ということは、この地球上で五感を使って「経験」していることはきわめて重要で、決して手放してはいけないことなのです。「知識」はいつも自分の経験の方に落とすようにして練り上げていかなければなりません。今日お話したことは、どこにも書かれていない、授業でしか聞けないことです。

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河本 英夫教授文学部 哲学科

  • 専門:科学社会学・科学技術史、基礎生命学/生物多様性・分類、内科系臨床医学/精神神経科学

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