日本製のテレビの鮮やかな映像に感動し、日本の技術力に憧れを抱くようになった大学院学際・融合科学研究科バイオ・ナノサイエンス融合専攻の董軍(トウ グン)さん。その思いは日本への留学、そして東洋大学での6年間の学びへとつながりました。卒業後は日本の企業に就職し、技術者として実践を積み、そのキャリアをいずれ母国で生かすという目標に向かって前進します。東日本大震災で周囲の知人が続々と帰国してしまうなか、「新学期も近いし日本の建物は地震では倒壊しない」と日本にとどまった勤勉さが、董さんに専門知識や日本語力、研究力といった大きな財産をもたらしました。

日本の高い技術力に憧れ、留学を決意

幼い頃、父が日立のテレビを買ってきました。当時はかなり高価な買い物だったのですが、家に置かれたそのテレビは人の毛根が見えるほど鮮明な映り具合で、子供心に衝撃を受けました。日本製はなんと性能が良いのかと感激したのが、日本の技術力に興味を持ったきっかけです。わが家で20年も活躍してくれた、その高い耐久性にも驚かされたものです。

父の友人に日本へ留学経験のある方がいたので、私は日本のことをいろいろ聞かせてもらって育ちました。また、私はロボットが好きで、日本製の二足歩行のロボットにも感銘を受けました。そういった経緯から、日本に留学して学び、技術を身に付け、日本の企業に就職して技術者になりたいと考えるようになったのです。

来日してまずは日本語学校で日本語を学びながら、先に日本に来ていた知人から、日本の大学について教えてもらったり、自分で調べたりしました。そして東洋大学川越キャンパスのオープンキャンパスに参加したところ、施設が充実していることに好感を持ち、ロボットについて学ぶにはふさわしい環境だという印象を受けました。また、そのオープンキャンパスで機械工学科のロボットの研究を目にして、この大学の機械工学科で学びたいと心が定まりました。

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進学か就職か迷い、大学院への進学を選択

現在は複雑流体研究室に所属し、直流磁場中における超常磁性粒子のクラスター構造について研究しています。磁性粒子とは、粒径数百ナノメーター~数十マイクロメーターほどの大きさの、磁性体微粒子です。磁性粒子が液体中に分散したものを磁性コロイド溶液といい、そこに磁場を加えると、多様で複雑なクラスター構造が形成されます。私は直流磁場中の常磁性粒子が形成するクラスター構造を実験的および数値的に解析するという、この分野では比較的基礎に当たる研究を行っています。

大学4年生のとき、進学するか、あるいは就職するか、かなり悩みました。早く日本の企業に就職して実践的な技術力を身に付けたいという思いも強く、一時は就職に気持ちが傾きました。しかし私の目標は、日本で技術力を得て、最終的には中国で技術者として活躍することです。日本以上に学歴を重視する中国では、大卒か院卒かで、就職にも大きく差が出ます。長い目で考えれば進学したほうが将来のためになると、研究科へ進む道を選びました。最初こそ迷ったものの、研究科での学びが非常に充実していたので、結果としては正しい選択だったと思います。

東洋大学では、学部で機械工学の知識を身に付け、副専攻でロボティクスも学びました。大学院学際・融合科学研究科では、先端ナノテクノロジーを研究しました。この6年間を通して、専門知識、研究力、日本語力、コミュニケーション能力が得られ、日本文化への理解が深まったと感じます。東日本大震災のときはお台場でアルバイトをしていて、レインボーブリッジを歩いて帰りました。後になって怖い体験をしたことに気付きましたが、周囲の人が落ち着いて整然と行動していたし、建物が倒れているわけでもなかったので、そのときは被害の大きさが分かっていませんでした。この震災で知人は何人も帰国してしまい、そのまま戻ってこない人もいました。私も両親から帰ってくるように言われましたが、日本での学びを続けたい気持ちが大きく、そのままとどまりました。

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将来は日本と中国を繋げる技術者に

日本で暮らしているうちに、日本が伝統文化を大切にしていることが分かり、素晴らしいと感じました。また、日本人は真面目で仕事に対して熱心に取り組み、きちんと挨拶を交わすなど、礼儀正しいことに感銘を受けました。日本の働き方に慣れた状態で中国に帰ったら、しばらくは仕事の仕方の違いに違和感を感じるかもしれませんね(笑)日本食も大好きになりました。中国の山東省出身で、主食は米よりも麺や饅頭だったのですが、日本の米のおいしさに驚き、日本では毎日お米を食べています。マグロの刺身を初めて見たときは生の豚肉かと思いましたが、今では好物です。

卒業後は日本の電子部品メーカーへの就職が決まっています。中国に支社を持つ会社なので、最初は国内で働き、いずれ中国支社で働くことを希望していますが、まずは会社から頼りにしてもらえるような社員になれるようにがんばります。留学の経験によって培われた日本語力や異文化に対する柔軟性、そして東洋大学で学んだ機械工学、ロボティクス、ナノテクノロジーの知識を生かし、日本と中国を繋くことのできる技術者を目指します。そしていつか技術者として、母国のものづくりに貢献したいと思っています。

董 軍(トウ グン)さん大学院学際・融合科学研究科 バイオ・ナノサイエンス融合専攻 2年

  • 所属ゼミナール/研究室:複雑流体研究室
  • 出身国:中国

  • 掲載内容は、取材当時のものです