東洋大学理工学部建築学科では、地域とのつながりを重視し、公共施設の開発プロジェクトに取り組み続けています。近年では埼玉県鶴ケ島市の公共施設の更新を仮定した提案が、社会の大きな注目を集めたばかり。2013年度は、東京藝術大学建築科の学生たちと競合し、埼玉県さいたま市大宮駅周辺の再開発に着目したプランを提案しました。

学生の目でとらえた町づくり

「大宮東口プロジェクト」とは、埼玉県さいたま市の大宮駅東口エリアを再開発用地として仮説した複合公共施設の提案です。実践的な学びの集大成として、一般社団法人 大宮駅東口協議会とさいたま市まちづくり事務所の協力を得て、理工学部建築学科4年生が東京藝術大学建築科の学生と合同で取り組んできました。1チーム3〜4名編成とし、東洋大学10チーム、東京藝術大学6チームの全16班に分かれて春から準備を重ね、大宮小学校と大宮区役所が所在する敷地を舞台にした設計プランを構築。コンセプトづくり、模型や展示パネル制作まで行い、一般市民も参加できる「パブリックミーティング」でプレゼンテーションを行いました。

全5回に及ぶ「パブリックミーティング」ではその都度、地域住民の意見や評価を得て、学生たちはそれを次の提案に反映します。毎回、優秀作品が選ばれることで、学生たちのモチベーションは高く維持されたまま、プランもどんどんブラッシュアップされていきました。

プロセスと成果をさらに一般公開

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自治体に任せきりにせず、自分たちの住む町は自分たちでつくっていこうという住民の思いが、学生の知識と技術を求めて、このプロジェクトは立ち上がりました。各チームは、現状の床面積を大きく上回る最大容積率700%を限度とした空間に、学校施設や公民館などの地域施設のほか、地域交流施設や商業施設、駐車場を組み込んだプランを練り上げ、イメージ豊かに繊細な模型で表現しました。スポーツや福祉をメインテーマにしたり、鉄道の町をイメージさせたり、空中参道を設けたりと、どれ一つとして同じ雰囲気のものがありません。町づくりを真剣に考え、楽しむ心が存分に映し出された模型ばかりです。

グループワークと地域交流によって学生自身が大きく成長できたこの学びの成果は、その後「公共建築から考えるアーバンデザインの実験」展覧会として、2013年10月18日から30日まで大宮中央デパートにて、11月には東京藝術大学大学美術館陳列館で公開されました。全16班が制作した模型が一堂に揃い、第1回の提案からの進化のほどを目にすると、学生の思い入れや試行錯誤、そして建築への情熱が伝わってきます。直接関わることはなかった行政の担当者たちも、プロジェクト期間中は学生たちの活動に関心を示したようです。さらに、プロセスがわかる全作品を展示することで、一般の方の町づくりへの意識づけをも後押しすることができたかもしれません。

苦労した分、達成感も大きい

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展覧会はプロジェクト参加学生が交代で運営しました。もともと工業デザインなどに興味を持っていた金安菜央美さん(建築デザイン研究室(工藤和美研究室)・新潟県立新潟西高等学校出身)と、幼い頃から住宅のチラシなどで平面図を見るのが好きだったという石倉瞳さん(建築デザイン研究室(工藤和美研究室)・山梨県立甲府東高等学校出身)は、同じ研究室の仲間どうし。「デッサンなど平面のデザインとは違う立体的なものづくりをしっかり学ぶことができました」と声を揃えます。

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「温泉宿泊施設・観光センター」というプランを打ち出した第6班の嶽山渉さん(建築・都市デザイン研究室(藤村龍至研究室)・明治学院東村山高等学校出身)は、“大いなる宮居”として大宮の地名の由来である大宮氷川神社の2400年以上もの歴史に注目したと言います。

「大宮氷川神社は日本でも指折りの古い神社であるにも関わらず、その歴史はあまり知られていません。門前町として発祥した町は、1628(寛永5)年に中山道の宿場町として町並みが整備されてから盛り上がり、大いに栄えた江戸時代を送ります。明治天皇即位の時にはこの神社を訪れるくらいだったと言いますから、大変な繁栄ぶりだったでしょう。その頃の勢いを取り戻したくて、僕たちは“宿場町”をテーマにし、街道沿いに宿が並ぶ町並みのように、切妻屋根の小学校や宿泊施設を配しました」

昔懐かしい宿場町の雰囲気がただようプランは惜しくも優秀賞を逃しましたが、「最終評価はどうであれ、みんな、それぞれ思い入れが強い自分たちの作品が一番だと思っています」と、嶽山さんは笑顔で語ります。

「氷川神社の歴史に始まり、実際に町を歩いて公共施設を見学するなど下調べにかなり時間を費やしました。僕は大宮出身ながら今まで知らなかったことがたくさんあると気づき、この町への愛着が増したように思います。仲間と話し合うたび、そして発表して住民の方から意見をもらうたびに問題にぶち当たり、行き詰まることもありましたが、実際の土地をモデルにしたプロジェクト参加はすごくやりがいを感じました」

大きな達成感を得て、卒業後にもさらに実力を磨く決意に満ちていました。

  • 掲載内容は、取材当時のものです