生物と医学と工学の基礎を学び、医学と工学のかけ橋になる人材を育成する生体医工学科。12ある研究室のテーマも「ストレスが体に与える影響」などの医学系から、「医療福祉機器の開発」などの工学系まで幅広い。カエルが大好きという田口綾乃さんは、生物機械システム研究室で「カエルの飛び込みの動き」を研究している。

生物科学と工学を融合させた幅広い学び

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高校時代から物理が好きで、理科に興味があったのですが、数学が苦手で進路選びには迷っていました。そんな時に「東洋大学の生体医工学科は、生物と物理を合わせた面白い勉強ができるらしい」と知り、志望しました。

私は1年生のときから、生物機械システム研究室(望月修研究室)に通い、生物の構造や機能を工学的に利用し、医学などへの対応をめざす研究をしています。魚や動物、両生類、人間や植物など、生き物の体のしくみや性質、動きを観察・研究し、そのデータを機械の動きに取り入れることができないか、ということを研究しているのです。1年生のとき、私は同級生2人と先輩1人でチームを組み、機械学会の流体力学部門の「流れの夢コンテスト」に「水の舞踏会(ガラス面を伝う水の研究)」というテーマで応募し、優勝しました。まだ学科そのものが新しく、先生方は学生のやりたいと思う気持ちを大事に、幅広い分野の中から興味あるテーマの研究を応援してくれます。

研究室の同級生は「土の中の水の流れの可視化」を研究しています。土の中の水の流れ方はまだわかっていません。流れが予測できると、どんな土にどのように水をまけば効率的なのか、農業での水やりが機械化できますよね。また、研究室の先輩は「魚の尾ひれ形状と推進力」に関する研究をしており、さまざまな魚の尾ひれのモデルを作り、どんな形が流体を送りだす力が強いのか、それはなぜなのかを調べています。これは、人工心臓などのポンプや、水害時の探索に使われるような魚ロボットの尾ひれの形、混合機のヘラの形などに応用することができます。こうした尾ひれの研究では、後輩が文部科学省主催の第1回「サイエンス・インカレ」で研究奨励賞を受賞しています。このように、研究成果が上がれば、すぐに実社会に役立つような研究テーマが多いのです。

カエルの動きの秘密を解明したくて

そんななかで私がテーマに選んだのは、「カエルの行動と認知」でした。2年生のときには、可視化学会や日韓熱流体という国内外の学会で「カエルの行動」について日本語と英語の両方で発表もしました。現在は、水槽の中に水を張り、5センチの高さからカエルを飛び込ませる実験をしています。松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句がありますが、実はカエルが飛び込んだ時は、あまり水しぶきがあがらず、ポチャンという音もしません。実は、俳句に詠まれたような音はしなかったのではないか、と言われているのです。

水しぶきもあがらず、音もしないのは、泡の巻き込みが少ないということ。それだけ飛び込んだ時のエネルギーが逃げずに、前に進む力に使われているということです。その飛び込みの姿勢や、皮膚の形状の研究が進めば、競泳の飛び込みの姿勢や、水着の開発、船の底の改良などにも転用できるのではないかと思います。

さらに、カエルは飛び込む時に、水面や地面を認識して飛び込んでいるのか、という疑問もあります。人間なら着地点を見て飛びますが、カエルはジャンプする瞬間には、実は見えていないのではないか。見えないままにとりあえずジャンプして、どこかで体の形を変えて飛び込んでいるのではないか。そうした疑問を解明していきたいと思っています。

理科の面白さを伝えられる先生になりたい

生体医工学科の授業はいずれも実践的かつ体験的で、プレゼンテーションの技術も磨かれます。特に1~3年次の「プロジェクトⅠ~Ⅷ」では、医療機器や計測機器を実際に体験して、自分たちでお互いを計測しながらレポートにまとめ、発表します。また2年次からの「生体医工学実験」では、各研究室での実験・レポートを通して、自分が進む専門分野を見極めることができます。

卒業後の進路は、臨床工学技士や教員、医療・福祉機器の研究開発者や、製薬・食品業界の開発・製造・分析技術者などさまざまです。私の夢は、中学の理科の先生になること。生体医工学科では、専門科目以外に教職課程の授業を履修すれば、中学と高校の教員免許が取得できます。カエルやヤモリなど、生き物がたくさんいる理科室を作り、子どもたちに理科の面白さを伝えていきたいです。

田口綾乃さん理工学部 生体医工学科 4年生

  • 所属研究室:生物機械システム研究室(望月修研究室)
  • 埼玉県立熊谷女子高等学校出身

  • 掲載内容は、取材当時のものです