木の香り立つ研究室で、木造建築への熱い思いを語ってくれた建築学科の高岩裕也さん。高校時代から建築を学び、数々のコンテストで受賞。東洋大学には「松野教授に師事したい」という確固たる目的で入学した高いモチベーションの持ち主だ。そんな彼が今も追いかけているのは、心を突き動かすような家を建てた祖父の背中だった。

尊敬する教授のもとで木造を学ぶ

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僕の祖父は大工でした。祖父の建てた家は、大工ならではのこだわりを持って造られており、子どもながらに惚れ惚れしていました。高校生の頃から専門的に木造建築を学んでいるのも、祖父の影響が大きいですね。

東洋大学の建築学科を選んだのも、木にフォーカスした建築の研究をしている数少ない大学の一つだったからです。なかでも、伝統的な木造建築から今日の「新木造」までをテーマにしている松野浩一教授の研究室に入ることが、入学当初からの目標でした。

「新木造」というのは木材だけでなく、その他の材料を組み合わせて、昔ながらの木造建築よりも耐震性や耐火性などに優れた造りを実現した構造のこと。僕自身は古い木造建築を残していくほうにも興味がありますが、そのためにも木造の構造(しくみ)をいろいろな角度から知っておかなければいけないと思い、松野教授のもとで学びたいと考えていました。

本来、研究室には4年生から配属されるのですが、授業中に常に質問していたからか、2年生の初め頃に松野教授に声を掛けていただき、以来、研究室の活動に参加するようになりました。

中尊寺境内の庫裡耐震改修プロジェクト現場に参加

古い木造建築に魅力を感じるのは、祖父の記憶も大きいのですが、純粋にデザインそのものも好きなんです。

最近、訪れた奈良の唐招提寺には圧倒されました。お堂の正面に連なる8本の柱が、ギリシャのパンテオン神殿の柱とそっくりなんです。このお寺は鑑真に由来していますが、ギリシャと同じ思想がシルクロードを渡ってやってきたんですね。さらに大屋根の反りに日本人独特の美意識も盛り込まれている。いにしえの人の営みのダイナミックさに思いをはせながら、いつまでも眺めていたくなる建物でした。

研究室でも企業とタイアップして、平泉にある中尊寺境内にある庫裡の耐震改修設計を現在進行中ですが、古い建物はできるだけデザインを変えたくないと思います。新しい建物はいくらでも建てられますが、その時代時代の技術や様式を残すことも文化として大切なことだと思うからです。そこで、木造の古建築の構造的な再評価と補強工事方法の検討をしています。

人の心を動かす建物を造りたい

僕がこの大学で一番学んだのは、「建築に携わるものであれば、思想や哲学を持たなければいけない」ということでした。建築にはルールはあるけれど、正解はなく、様々な視点での判断が必要です。これは建築の分野であれば全てにおいて共通して言えることです。例えば、建築家であれば、自分の美意識や周辺環境との調和、そこに暮らす人に与える影響などに思考を巡らせなければいけないということです。

僕が木にこだわるのも哲学の一つと言えるのかもしれません。二酸化炭素を溜め込む性質がある木の建物は、環境の面からも最近は需要が高まっています。特に法改正後は、公共建築には多く取り入れられるようになりました。

でも、国内外の建築家の本を読んだり、教授たちの話を聞いたりすると、もっと深い思考のもとで木造建築を考えなければいけない、と思います。この大学には松野教授をはじめ、哲学を持った素晴らしい先生がたくさんいます。

卒業後は大学院に進みますが、その後は建築設計の現場に出ようと考えています。僕にとっての祖父の家のように、人の心を突き動かすような建物をいつか造ってみたいという夢があるんです。

高岩裕也さん理工学部 建築学科 4年

  • 所属研究室:構造設計+木造建築研究室(松野浩一研究室)
  • 都立総合工科高等学校建築・都市工学類型出身

  • 掲載内容は、取材当時のものです