首都圏の大学生と読売新聞社が共同でつくる学生新聞『キャンパス・スコープ』。毎年10月に発行する新聞制作やウェブ版の記事作成、そして広告の営業などを学生メンバーが行っています。東洋大学からもマスコミなどに関心を持っている学生が数多く参加しています。新型コロナウイルスの感染拡大によって、取材スケジュールなどが大幅に変わる中、学生たちはオンラインなどを活用して紙面発行に取り組みました。そうした非常事態での経験は参加した学生たちに、どのような影響をもたらしたのでしょうか。

コロナ禍だからだからこそ、できることがあるはず

2020年10月に発行した『キャンパス・スコープ』44号には、18大学から計42人が参加(2020年9月末時点)しました。東洋大学から参加した法学部企業法学科3年の吉田一葵(かずき)さんもその一人です。

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学内で開かれているマスコミ塾で『キャンパス・スコープ』43号の代表と偶然出会い、活動に関心を持った吉田さんは、もともとマスコミを志望していたこともあり、2019年12月から参加することになりました。「そのころから当時、防衛大臣だった河野太郎さんに取材をしてみたいと思っていました。ツイッターなどSNSを利用した情報発信に積極的な理由を聞いてみたかったからです」と吉田さんは話します。

ところが、2020年3月に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になり、読売新聞東京本社で開かれていた定例会議の開催が難しくなりました。4月上旬に予定していた取材も、取材先からの申し出で中止になりました。

「大学へも行けないし、これからどうしたらいいのか、最初は呆然としました」と当時を振り返る吉田さん。しかし、粘り強く取材先と交渉を重ね、6月にオンラインで音楽ユニット「ぷらそにか」の取材を実現し、その後、念願だった河野大臣への取材許可が下りました。

吉田さんは、緊張しながらメンバー3人で東京・市ヶ谷本村町にある防衛省の大臣室に向かいました。質問に対して、立て板に水で答える「河野大臣ペース」で取材は進みました。「正直なところ、聞きたいことのすべてを聞き出せたわけではありませんが、大臣の思っているアフターコロナの社会の在り方をきちんと紹介できたのがよかったと思っています」。それは吉田さんが取材の難しさと同時に、注目の人物に直接会って話を聞ける醍醐味を実感した瞬間でもありました。

取材活動の傍ら、PRの責任者も務め、新聞の配布場所の新規開拓にも取り組みました。例年であれば『キャンパス・スコープ』を知ってもらう大きな機会となる学園祭やイベントが相次いで中止となったため、高校にも置いてもらうよう新規開拓を先頭になって行いました。

「将来は新聞社で仕事をしたい」。『キャンパス・スコープ』での経験を経て、吉田さんの思いは強まりました。「コロナ禍だからできないではなく、コロナ禍だからこそできることがあるはず。そのことを見つめ続けていきたいと思っています」

行動に制約があっても、自分にやれることを見つける

経済学部総合政策学科3年の高見沢楓さんは44号の編集長という重責を担いました。参加のきっかけは、学内の就活講座で、知人の『キャンパス・スコープ』メンバーから誘われたことでした。もっとも、メディアを通じて情報を受けるだけでなく、発信する側の経験もしてみたいと思っていたそうです。「メディア制作には関心があり、それが『キャンパス・スコープ』参加に結びつきました」と高見沢さんは話します。

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自身で行う取材だけではなく、編集長として紙面全体も見渡さなければなりません。実際、新型コロナウイルスの感染拡大によって自粛期間が長引き、取材を含めて予定は大きな変更を強いられ、「今年は『キャンパス・スコープ』本当に発行できるのだろうか」と自問自答する不安な日々が続いたといいます。

緊急事態宣言下では、メンバーたちとSNSを駆使して非対面の打ち合わせを重ねました。『キャンパス・スコープ』のホームページ内で、学生視点でコロナ禍の現状を伝える「新型コロナ学生リポート」や、SNSで自粛期間中のメンバーの様子を発信する「キャンスコ@ホーム」も始まりました。また、新聞紙面では「困難に立ち向かう」をテーマに制作に取り組むことも決まり、発行直後は「正直、ほっとしました」と高見沢さん。『キャンパス・スコープ』の紙面制作を通して、行動に制約があっても、自分にやれることを見つけ、積極的に取り組むことの大切さを実感しました。

「オンラインでも対面でも、やり方を工夫すれば、いくらでも行動することができるはず。これからの就活も大学での学びも、『キャンパス・スコープ』での経験を活かしながら、自分のできる範囲内で、全力で取り組んでいきたいと思っています」。44号の紙面のフロントページに大きな文字で掲げた「私たちは負けない」というコピーは、そんな高見沢さんの思いを象徴しているのかもしれません。

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就活も勉強も自分次第で何でもできる

社会学部社会福祉学科2年の日栄奈夏さんが、『キャンパス・スコープ』で担当したのは広告営業です。「さまざまな企業の方と接することで、社会人としてのマナーが身につけられたら」と軽い気持ちで参加しましたが、活動を始めるとさまざまな壁にぶつかりました。

実際に会ったことのない人たちとオンラインで会議をしなければならない機会が増え、最初は戸惑いました。直接会って話をするより、さらに丁寧なコミュニケーションを重ねる必要があったからです。「ただ、そのプロセスが私には合っていることに気が付きました。オンラインでのコミュニケーションの手法を、自分が目指している福祉の仕事にも活用していきたいと思っています」と日栄さんは話します。

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日栄さんも吉田さんや高見沢さんと同様、コロナ禍のマイナス面ばかりに着目するのではなく、むしろチャンスとして前向きに捉えていることが共通点です。「オンラインによるコミュニケーションが普及したおかげで、むしろ自由度が増したと感じています。就活も勉強も要は自分次第で何でもできると思えた1年でした」と日栄さんは力強く話します。『キャンパス・スコープ』への参加が、自らの進路や可能性について考える貴重な機会を与えてくれたようです。

難局を乗り越えてきた経験が今後の人生にも生きてくるはず

「『情報を伝えたい』という彼らの思いが紙面からも伝わってきます」。メンバーたちの相談役を務める読売新聞東京本社教育ネットワーク事務局の鳥越恭さんは、でき上がった44号を手にしてそう話します。

メンバーたちと同世代で東京パラリンピック代表に内定の兎澤朋美さんへのインタビューやコロナ禍での『キャンパス・スコープ』の活動ルポ、そして吉田さんたちによる河野大臣インタビューなど、紙面の内容は実に多彩です。鳥越さんは「さまざまな制約がある中、これまでに負けず劣らずの充実した紙面に仕上がっています」と学生たちの努力を称えます。

直接、取材相手と会って話をうかがう機会が激減する中で、メンバーたちはSNSなどのさまざまなコミュニケーション手段を駆使して、難局を乗り越えようと努力してきました。そして、受け身ではなく仲間とのコミュニケーションを図りながら、目の前の状況を前向きに捉えようとしたのです。「この経験は、就活や大学での学修にとどまらず、その後の彼らの人生にも良い意味での影響を与えてくれると信じています」と、紙面発行のために奔走した学生たちの今後に期待を寄せました。

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吉田 一葵さん法学部 企業法学科 3年

  • 私立城北高等学校出身
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高見澤 楓さん経済学部 総合政策学科 3年

  • 私立十文字高等学校出身
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日栄 奈夏さん社会学部 社会福祉学科 2年

  • 埼玉県立川口北高等学校出身
  • 掲載内容は、取材当時のものです