企業や組織で一定期間、働くことができるインターンシップは、学生が社会へ踏み出す前に、働くことの意義や自分の将来の方向性を考える機会として、多くの学生が参加しています。「経済同友会インターンシップ」は、学生の成長支援や「学び」を重視したプログラムであり、低学年のうちに実社会を経験し、そこで得た気づきをその後の大学での学びやキャリア形成に生かすことを目的とするものです。参加した学生たちは何を学び、自分のキャリアをどのように考えているのでしょうか。

事前事後研修、成果報告会を含む学びの機会

一般社団法人 経済同友会インターンシップ推進協会が実施する「経済同友会インターンシップ」は、日本を代表する有力企業などが、国公私立17大学と国立高等専門学校機構と連携して教育効果の高いインターンシップを展開し、学生の成長を支援することを目的とする制度です。東洋大学も同協会に加盟する大学の1つであり、学内での書類選考と面接選考によって選抜された2年生が、夏季休暇期間中の2〜4週間のインターンシップに参加します。
従来のインターンシップは3年生を対象とし、短期間で実施されることが多いなかで、「経済同友会インターンシップ」は、1、2年生を対象として長期間実施します。また、大学の教員による事前・事後の研修を受け、事後に成果報告会を開催することまで含めた「学び」を重視し、単位認定をする正課のキャリア教育プログラムとして位置づけられています。
2019年度は6学部から11名の学生が選抜され、次の各企業へ派遣されました。

◆金融関係◆
第一生命保険株式会社、野村証券株式会社、株式会社三井住友銀行、みずほ証券株式会社
◆ソフトウェア関係◆
KDDI株式会社(株式会社ARISE analytics)、コニカミノルタ株式会社
◆メーカー関係◆
キッコーマンビジネスサービス株式会社、花王株式会社、株式会社キッツ、デュポン株式会社、住友林業株式会社

働くことの意義を考え、学びに意欲的になれた

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社会学部メディアコミュニケーション学科の横山未来さんの派遣先は、花王株式会社でした。テレビのドラマやアニメの制作の仕事に興味があり、1年生のときにはHiTS(白山インターネットテレビステーション)プロジェクトに参加し、授業や課外活動を通して、白山周辺の地域情報を企画・取材・編集した番組を作り、学外へ発信する活動をしてきました。2年生になりPR論の授業を履修したことで、企業でのメディア戦略や広告などの分野にも興味が広がり、インターシップへの参加を希望しました。
「企業が消費者に対してどのようにメッセージを伝えているのかに関心がありました」と話す横山さんは、会社内のさまざまな部署の仕事を理解し、テレビの生放送の番組内で放送される生コマーシャルの製作現場を見学したり、メディア企画部の会議などに参加したりしました。最終週には「働くことの意義を知る」をテーマに自分の人生を振り返り、若手社員と話すなかで、自分なりの働く意義を見いだし、発表しました。
「私はインターンシップを通じて、自己実現と価値の提供が合わさったところに働くことの意義があると考えました。自分が明確なビジョンを持ち、達成していくことは自己実現であると同時に仕事をすることであり、さらに自分が生み出したものによって社会に価値を提供することが大切なのだと思います。実際に花王では、自分の仕事に責任と誇りを持って働く社員の方と接し、その方は私にとってロールモデルとなりました」と話す横山さん。大学での学びを仕事の現場で体感し、現場での体験がその後の授業内容の理解を深める助けにもなっているそうです。資格・検定試験へも意欲的に取り組むようにもなり、「もっと、自分の視野を広げて、経験値を増やしていきたい」という思いが高まっています。

「連携」の大切さをインターンシップで実感

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エンジニアを目指す情報連携学部情報連携学科の福井隼さんは、「1年生のときからインターンシップに参加したかったものの、プログラミングのインターンシップは、実務経験がないとエントリーできないものが多く、経済同友会インターンシップは2年生限定で、経験の有無にかかわらずチャレンジすることができるので参加しました」と振り返ります。
派遣先はコニカミノルタ株式会社でした。福井さんを含む全国から集まった6名の学生が3名ずつのチームを組んで、ソフトウェア開発とアプリ開発に取り組みました。福井さんはソフトウェア開発チームとして、すでに社員が取り組んできたプリンターの故障予測ソフトウェアの開発に携わり、さまざまな部署やチームと連携しながら進めていきました。「自分たちが開発するソフトウェアがその後も社内で実際に使われるので、ミスがないようにという意識で臨みました」という福井さん。エンジニアの仕事については、インターンシップを体験する前は、パソコンに向かって黙々と作業をするという漠然としたイメージしかなかったと言います。しかし、実際に働いてみると、「開発の現場はチームで働き、『連携』や『コミュニケーション』を重視していることを間近で見ることができて、自分の目標がさらに明確になりました」と話します。また、大学では与えられた課題に取り組むという学び方をしてきた一方で、今回、開発の現場で、答えのないテーマに向かって自分でゴールを設定して、ゼロから生み出していく過程を体験できたことは大きな学びになりました。今後は、エンジニアに必要とされ、自分にはまだ足りないと感じているコミュニケーション能力、自ら調べて解決する力をさらに高めていきたいと意欲を見せ、台湾への短期留学も予定しています。

自分の興味や得意なことを見つけるために

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「経済同友会インターンシップ」を担当する社会学部社会福祉学科の榊原圭子准教授によれば、参加した学生たちは、インターンシップを通じて自分の学びに対する姿勢やキャリア形成について見つめ直し、意欲的に学びに向かうようになっています。「1、2年生は就職活動も本格化していないため、気持ちのうえでは比較的余裕がある時期です。就職にとらわれず、気持ちが開かれた状態でインターンシップを経験することで、気づきも多く、自分の興味・関心や得意なことを確認することができます。また、大学生活の残された時間を有意義に使えることが一番のメリットです。インターンシップをした後の面談では、『とてもよい経験になった』と話す学生たちがいる一方で、逆に『悔しい経験をした』と話す学生もたくさんいました」と榊原准教授は話します。
インターンシップでは他大学の学生と一緒にグループワークをすることも多く、うまく自分の提案を伝えられなかったり、自分とは異なる価値観にぶつかって悩んだりすることもあります。しかし、そのような悔しい経験をしたことで、「むしろ、そのような経験ができて良かった」といった声も聞かれると言います。それらは全て「社会に出て起こり得ること」であり、インターンシップを通して、どのように自分で課題解決をしていくのか、悔しい思いをしないためにどのような力を身につければよいのかなどを考えるようになり、そうした経験すべてが「学び」につながります。
「学生はインターンシップと聞くと身構えてしまい、先送りしてしまいがちですが、それほど堅苦しく考えるものではありません」と榊原准教授。インターンシップは、まだ自分が何に興味があるのかよくわからない段階で、どうしたらいいのかと頭で考えるのでなく、まずは外に出て行動してみることで、「これは面白かった」「あれはちょっと違うな」といった経験を通して、自分の興味が見えてくるものです。「インターンシップを自分の将来やキャリアに直接結びつけるのではなく、『自分の興味や得意なことを見つけるためにインターンシップを活用する』と気持ちを楽にして挑戦し、『大学外での気づき』と『大学内での学び』の循環をしてほしいものです」と期待を寄せています。

  • 掲載内容は、取材当時のものです