「社会を良くするためのアイデアをビジネスにする」をプロジェクトにした、経営学部会計ファイナンス学科の「ソーシャルビジネス実習講義」。授業では、学生自らが社会的課題を見つけ出し、その解決方法をソーシャルビジネスとして成り立たせる可能性を探ってきました。そして、その集大成として行われたプロジェクト報告会で、学生たちはグループごとに新規事業プランを発表。学生ならではの視点で提案される事業は多彩で、いずれも学生たちの熱い思いが込もった発表となりました。

取り組むのは「新規事業を提案する」というチャレンジ

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川﨑健太郎先生が担当する「ソーシャルビジネス実習講義」ではこれまで、ソーシャルビジネスを行うNPOの代表、ソーシャルビジネスに資金融資を行っている金融機関の融資担当者、さらにリレーションシップバンキングの専門家などを講師に迎え、ソーシャルビジネスの重要性や起業家精神について学んできました。また、学生自らがソーシャルビジネス機会の潜在性を探るため、授業はPBL(プロジェクトベースドラーニング:課題解決型学習)型で進めてきました。その学びを新規事業という形へつなげていくのが、「ソーシャルビジネス実習講義」のテーマです。

学生たちは取り組むべき社会的課題を定め、グループ研究やディスカッション、講義と演習を通じて、「社会を良くするためのアイデアをビジネスにする」というプロジェクトの実行に向けた新規事業プランを研究してきました。そして次のステップとして、テーマに対して、同じような事業や取り組みを行っているNPOを訪問し、事業の現状と課題や、新規事業プランに事業継続性を与えるには何が必要かを調査しました。また、自分たちの考える事業が可能であるか、NPOの方々からのアドバイスも受けました。ほとんどの学生がフィールドワーク未経験だったため、NPOへのアポイントメントから始まり、実際に訪問して担当者の話を聞くという一連の流れは新鮮な体験だったようです。

こうしたNPO訪問というフィールドワークを経て立案された新規事業プロジェクトの報告会は、これまでのゲストスピーカーや訪問したNPOの方を招いて開催されました。

研究の成果を発表する緊張のプレゼンテーション

事業継続性の観点から資金調達が可能となるような事業計画のプレゼンテーションは、学生たちにとっても何カ月も取り組んできた課題の集大成とあって、発表する側だけでなく、聴く側にも力が入ります。前回までの発表では、国際交流や環境問題、高校中退者支援など、さまざまなテーマが取り上げられました。この日発表するのは4グループです。

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最初のグループのテーマは「労働問題について」でした。学生たちはさまざまな労働問題を解決するために、すべての労働組合が登録するホームページを作成することを提案しました。川﨑先生は、職場でさまざまな問題を抱えている人々を直接支援するのではなく、受け皿となる労働組合の強化を図り支援するという点を、「このグループ独自の視点」と評価しました。

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2番目と3番目のグループがテーマに選んだのは、「待機児童問題」です。ひとつのグループは0~3歳児の集団保育を、もうひとつのグループは大学内に保育所を設置することを提案。最初のグループに対し、川﨑先生は「さまざまな保育のメニューをそろえることで、銀行から融資してもらいやすくなるのでは」と、次のグループには「大学だからこそできることをよりアピールするとさらにいいが、メッセージ性があるいい発表」とコメントしました。
最後のグループは「子供の貧困」をテーマに取り上げ、子供のための料理教室を開催することで、子供が食事を作れるようになるだけでなく、親子のコミュニケーションや健康的な食生活にも役立つと訴えました。企業や農家などの協力を得て食材や試供品を提供してもらったり、子供だけで参加できたりするアイデアが、高く評価されました。

発表後、川﨑先生は「社会の中のマイノリティを助けるのではなく、その人たちが自立して社会で活躍できる仕組みを作るということを、授業では重視してきました。みなさんのアイデアは、少しの変化を加えることで、実際に大きな力を生むことができます。ですから、どんな小さなアイデアでも小さな種であっても、外へ発信していくことを常に心掛けてください。そのアイデアにお金がつき、事業となって継続していくのです」と話し、講義を締めくくりました。

授業を通じて知ったフィールドワークの重要性

プレゼンテーションを無事に終えて、全15回の講義は終了。学生たちは、この講義を通してさまざまな学びや発見があったようです。報告会後、労働問題についてプレゼンテーションをしたグループのひとりである佐藤辰矢さん(3年生)は、「NPOの方がどのような思いで活動されているのかなどは、実際に訪問しなければ分からないことでした。インターネットで調べるだけでなく、直接話を聞きに行くことは大事だと気付かされました。私はイブニングコースから聴講生としてこの講義に参加しましたが、ほかのグループのプレゼンテーションも勉強になり、座学の授業よりも楽しく、深く学ぶことができたと感じます」と話しました。

同じグループの村上明日花さん(3年生)は、新規事業を考えるという課題を最初に聞いたとき、「そんな難しいことは、とてもできそうにない」と思ったそうです。しかし、研究を進めていくうちに、「座学で知識をインプットするだけでなく、そこで得られた知識を考えにつなげていくことが大切なのだと気付きました。そうしてメンバーで掘り下げて調べていくうちに、『自分たちにもできる』と思えるようになりました」と話します。

子供の料理教室について発表したグループのウィンナ・ナタシア・クリスティさん(3年生)は、インドネシアからの留学生です。「インドネシアには貧しい暮らしをしている子供たちがたくさんいますが、豊かな国である日本にも貧困に苦しむ子供がいることを知って驚き、テーマに選びました。この講義を受講したことで、これからもフィールドワークのある授業を受けたいと思うようになりました」と語りました。

そして、NPOに対するイメージが変わったという小笠原めぐみさん(3年生)も、こう続けます。「NPO法人は寄付に頼っているという認識でしたが、訪問したNPOはビジネス性が高く、事業で収益を上げることで再投資できるという仕組みがしっかりできていました。また、プレゼンテーションは大勢の人の前で行うので、いかに一方的な発表にならず、聴いている人たちの共感を得るかが重要だということも学びました」

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川﨑先生は、この講義を通して学生たちに「社会の問題を自分の問題としてとらえるようになってほしい」と考えていました。報告会が終了した後「実は社会が抱えている多くの問題は、学生自身が直面している身近な個人の問題とよく似ています。そこに気付くことができれば、すぐに助けや解決が必要な大切な問題として感じることができます。学生たちは授業を重ねるたびに、具体的で効果的な解決方法を見つけようと、真剣に向き合うようになっていきました。それは、困っている人々の立場を、自らに置き換えることができるようになったからかもしれません」と述べました。

学生たちはこの講義で、大学で学んだことを実際に生かしてひとつの形にするという、貴重な機会を得ました。今回の課題解決のためのさまざまなアイデアは、インターネットを通じて発信される予定です。

  • 掲載内容は、取材当時のものです