専門知識を活かしてチーム医療の現場で活躍する管理栄養士、それは食環境学部健康栄養学科の目指す管理栄養士像のひとつです。4年間の学びでは講義と実験実習によって知識と技術を、そして学外施設での実習では実践力を身につけます。角田先生の専門である「臨床栄養学」では、病気の人の栄養状態を判断し、その状況に合った栄養補給を提案することで病気を治す、あるいは予防するという「栄養管理」について学びます。以前は遺伝子というミクロの研究に取り組んでいた角田先生が臨床栄養学に惹かれたのは、研究の結果が「病気の治癒」という目に見える形で現れるところでした。

結果がすぐに生かせる研究がしたくなった

現在は病気の人の食事を考える臨床栄養学、なかでも糖尿病や脂質異常症といった「生活習慣病」について研究しています。最初に手がけた研究は「分子栄養学」の分野で、血液中の糖を細胞の中に取り込む役目を果たす「糖輸送体」という遺伝子の発現が、食べ物によってどのように変わるかについて研究していました。このミクロ単位での研究を続けているうちに、もう少し人に近い研究をしてみたいと思うようになり、細胞ではなく動物の個体を対象にして、「食べ物による代謝」や「食べ物の効能」について研究するようになったのです。さらにその後、結果がすぐ人に活かせるような研究がしたいと考え、現在の専門分野である「臨床栄養学」にたどり着きました。

20150616_02_02

栄養指導の根拠となるデータの蓄積が必要

病院で管理栄養士として働いていた時期、患者さんと接するうちに、意外なことに細かな臨床データがないことに気づきました。たとえば糖尿病の患者さんに甘いお菓子の間食は推奨されませんが、お楽しみとして週に一度、あるいは月に一度の摂取を認めようとした場合、どれくらいの頻度の摂取であれば血糖値への影響を最小限に留めることができるのか、患者さんの糖尿病進行度も踏まえた明確なデータが存在しないのです。管理栄養士が自信を持って患者さんに栄養指導するためにはデータの蓄積が必要だと感じたため、科学的根拠を出していく研究をスタートさせたところです。

具体的には、糖尿病または糖尿病予備軍といわれている患者さんを対象に、食事調査や身体計測、血液検査などを行い、これらの関連性を見ていきます。糖尿病に関する研究は、世界各国で行われていますが、日本人は欧米人に比べて膵臓が弱いため、たくさん食べると太る前に膵臓が疲弊し、糖尿病が悪化しやすい体質です。同じ病気でも人種によってその背景は違うため、日本は日本での科学的根拠を積んでいくことが重要です。

食事から病気の予防や治療に貢献できるということは、医療費を減らすことにもつながります。また、患者さんも薬の投与といった負担なく、日常生活の中で健康が取り込めるという利点があります。食べることは人間の本能ですから、食事の節制は誰にとってもきついものです。実際、糖尿病の患者さんの中には「好きなものを食べる代わりに薬はちゃんと飲むから。薬で治せるならそれでいいでしょう」と言う人もいます。そうは言っても、薬の効果というのはベースにある程度の食事療法があって初めて生きるので、そこはいつも患者さんにしっかり説明するようにしています。

20150616_02_03

飽食の時代だからこそ、何をどれだけ食べるかが重要

マウスを使ってミクロの研究をしていた頃に比べ、出た結果がそのまま活かせることは現在の研究の大きな魅力です。患者さんが元気になることにつなげられることに喜びとやりがいを感じます。その反面、食事と一口に言っても様々な種類や食習慣があるため、その食事を対象として研究することは非常に難しいものです。また、病気と食事という関係だけでなく、そこには薬も関わってきます。

そもそも、食事をして血糖値が上がると腸管からインクレチンというホルモンが出て、それが膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促進する働きをします。その結果、血糖値が下がりますが、糖尿病の患者さんの場合、インスリンの効果が弱く、インスリン分泌が減って血糖値が下がりにくいのです。インクレチンはDPP-4という酵素により数分で壊されてしまうため、現在はDPP-4を阻害する薬が糖尿病治療薬として広く利用されています。そこで私は食事の面からのアプローチで、インクレチンの活性を食事でも高められるような研究にも取り組もうとしています。

飽食の現代、食べ物とその情報があふれている世界で私たちは暮らしています。そのような環境で生活習慣病にかかる人がいるのは、無理もないことかもしれません。自分が食べるべきものを正しく選択し、適切な量を食べる。それができないと病気に直結してしまう難しい時代だからこそ、食べ物についての正しい情報を発信する必要があると感じます。今後も患者さんの健康に役立つような研究を進めていきたいと思っています。

20150616_02_04

角田 伸代教授食環境科学部 健康栄養学科

  • 専門:臨床栄養学

  • 掲載内容は、取材当時のものです