人はなぜ移動し、どうやって移動先の地域社会で生活を組み立てていくのか。人の流れに注目し、長らくフィールドワークを続けてきた社会学科の西野淑美准教授は、大災害発生後の人の流出入についても調査を重ねている。動く人、動かない人、さまざまな人の思いをどうすくい上げることができるのか、都市と地域の社会学の、今後の課題だ。

さまざまな節目で移動する人々

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あなたは引っ越しをしたことがありますか? あるとしたら、それはいつ、どんな理由によるものだったでしょうか。

私の研究テーマは「人の移動」。分野としては都市社会学や地域社会学に含まれます。進学、就職、結婚など、人はさまざまな節目で住まいを移し、県境、国境を越えます。

もちろん、一生同じ場所に住み続ける人もいます。従来の都市社会学ではそうした「動かない人」から見た研究が盛んでした。動かない人の方がその土地のことをよく知っていることも多いですし。

私が人の移動に着目するようになったのは、従来の研究が動かない人や、動き終わって定着した人に拠っていたことが1つ。もう1つは、大都市の多くの人と同じように、私のルーツも動く人にあったからかもしれません。

私の父は新潟から東京に出てきた人です。動く人がどんな理由で移動先を選び、人生を組み立てていくのか。それまでの研究では得られていなかった動く人の思いを追いたいと考えたのです。

動かざるをえなくなる人の思いも

災害が起きたときにも人は動きます。1995年に発生した阪神・淡路大震災から3年後、大学院生だった私は、研究グループで現地調査に赴きました。

調査に入った神戸市灘区では、震災後、道路を広げて狭い路地を減らそうという都市計画が持ち上がっていました。そのため、事業区域内で被災した人たちは、家を失っていても何年も建て替えられないという状況に陥っていたのです。

土地はあっても住めないからと神戸を離れる人。仮設住宅で辛抱強く待つ人。子どもの学校を変えないために近くで住まいを探す人。戻る、戻らないにかかわらず、一人ひとりが厳しい事情を抱えていました。

2011年に起きた東日本大震災でも、これから多くの都市計画事業が行われます。それぞれの事情に対して、きめ細かい支援がなされれば、と思います。しかし、多くの仕事を抱えた被災地の行政には、細かい把握や対応が難しいことも、見えてきました。私は震災以前から岩手県釜石市をフィールドに調査を行っていますが、異なる事情の人たちが、どのような思いを持ってこれからの人生を組み立てようとしているのか、少なくとも、丁寧に記録に残したいと思っています。

多様な価値観を認められる人に

現代人が一番移動するのは、進学や就職と重なる10代後半~20代です。昔は就職による移動が一番大きなもので、女性は最初の移動が結婚によるものというケースも多く見られました。

基本的に、首都圏生まれの人は「動かない人」です。なぜなら移動しなくても求める機会を得られるからです。移動しないと機会を得られない地方の人は、機会が提供されている場所まで移動しなければなりません。大学進学率が上がっている今、自分の学びたいことを求めて移動する大学生の数は、この20年くらい、昔より一段と高い水準が続いています。

大学は、動いて機会を得た人と動かずに機会を得られた人が出会える場です。それぞれが多様な価値観に触れることで、自分とは違うものを認められる人になってほしいと思います。

社会学そのものは、問題を解決すること自体が直接のゴールではありません。その裏で本当は全体として何が起きているのか、どんな立場がぶつかりあっているのか、しっかりと見極めていく目をはぐくんでください。

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西野淑美准教授社会学部 社会学科

  • 専門:都市社会学、地域社会学

  • 掲載内容は、取材当時のものです