かつて手術ロボットの開発に携わるなど、一貫して「医療と福祉を支える工学技術」に取り組んできた山内康司教授。国内最高峰のモノづくりの拠点「産業技術総合研究所」などでの豊富な実績から今、学生たちに伝えたいのは「真に役に立つモノづくり」だ。教授とゼミ生たちは今日もラボを飛び出し、社会を見ていることだろう。

工学のアプローチで名医を育成

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すべてのお医者さんをスーパードクターにしよう。これが私の研究室が取り組んでいる「命を支えるモノづくり」の一つです。

よくテレビ番組などで高度な技術を持ったお医者さんが紹介されますが、なぜ取り上げられるかというと、やはりそのような医者の数が少ないからなんですね。難しい手術ほど、経験を積まないと技術は向上しません。とは言え、手術や治療というものはスポーツのように繰り返しトレーニングができない。スーパードクターがなかなか育たないのは、こうした練習のチャンスの少なさにも原因があります。

そこで私たちが開発しているのが、手術で使う器具とコンピュータを連動させた手術のトレーニングシステムです。コンピュータ上に表示した内臓を、実際に手を動かして切るなど、手術のシミュレーションができる装置なのです。

この装置を使えば何人もの手術に携わらなくても、経験豊富な医者にも等しいスキルを磨くことができます。

工学の技術と柔らかい発想で、医療や福祉の現場で働く人たちを支援すること。それが私の研究室が掲げているテーマです。

街の優しさを計る車椅子センサー

生体医工学科には福祉に関心のある学生が多く、私の研究室の学生にも福祉サークルでボランティア活動をしているメンバーがいます。彼らも気にしていましたが、日本のバリアフリーはまだまだ進んでいません。

駅のホームから車椅子が転落する事故もしばしば起こっています。原因はホームの微妙な傾斜。駅のホームは、水はけのためにほんの少し線路側に傾いたつくりになっているのです。街の中にはこうしたわずかなようで、実はとても危険な障壁が至るところにあるのです。

現在、研究室では街のバリアフリーを計るセンサーの開発を進めています。このセンサーは車椅子に取りつけて、道路の傾きや段差などを検証するものです。車椅子の利用者がなんとなく不便に感じていたことを、数値として明らかにしようという取り組みです。

高齢者や障がい者に優しい街というのは、健常者にとっても暮らしやすいはず。広い意味での「福祉に貢献するモノづくり」として、このセンサーを都市計画に役立てていただきたいですね。

真に社会に役立つモノづくりを

理工学部というとコツコツとモノづくりをしているイメージがありますが、私の研究室はわりと外に出ていくことが多いのが特徴でしょう。

福祉機器の研究では日本一の規模を誇る「国立リハビリテーションセンター」の見学は恒例行事です。また、筑波にある「産業技術総合研究所」にも、かつて私が所属していた縁でよくお邪魔させてもらっており、現在は私の研究室の4人の学生がここで研究を行っています。また、医療機器メーカーの企業見学や展示会などにもよく足を運んでいます。

とにかく学生たちにはいろんな立場の人と話をしてもらいたいと考えています。どんなに工学の技術を結集して素晴らしいモノを作っても、利用者が使いにくかったり、安全性に問題があったりしたら意味がありませんから。

いいモノを作るだけでなく、実際に役立つまでを考えるのが、私たちの使命です。

だからこそ研究室にこもらずに、どんどん世の中を見てほしい。そこで自ら課題を見つけ出し、解決するための開発に取り組めれば、一流の研究者への一歩を踏み出したようなものです。

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山内康司教授理工学部 生体医工学科

  • 専門:医工学、手術支援のための医療機器の開発

  • 掲載内容は、取材当時のものです