極限環境で生きる微生物を発見し、産業応用する。道久則之教授が専門とする「応用微生物学」の研究は、実は私たちの生活に身近なところに生かされているという。「未知の領域に踏み込み、粘り強く研究を重ね、発見する興奮を学生にも味わってほしい」と願い、今日も優しいまなざしで学生たちの研究を見つめている。

微生物がつくる酵素の発見が生活を変えた

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地球上には、人間の目には見えない小さな微生物があらゆるところに潜んでいます。とても生物がすめるとは思えないような環境でさえ、生きていける微生物がいるのです。たとえば、人間が手を入れたら溶けてしまうほどの強い酸性やアルカリ性の環境、高い濃度の塩水の中、100℃を超える温水、凍りつくような冷水など、過酷な環境にすむ微生物(極限環境微生物)が、私の研究対象です。なかでも、有機溶媒といって、水に溶けない物質を溶かす液体のなかで生育できる微生物(有機溶媒耐性微生物)のメカニズムを調べ、研究しています。

こうした微生物のなかから、医薬品や食品工業などの分野で利用価値の高い物が多く見つかっています。そこで私は、微生物が出す酵素を取り出し、産業に応用する研究も進めています。

では、極限環境微生物の研究が、私たちの生活に身近なところで応用されている一例を挙げましょう。洗濯用の粉末洗剤には、アルカリ性の環境に耐性を持つ微生物の出すアルカリセルラーゼという酵素が配合されています。この酵素の発見により、従来の洗剤では落とせなかった、繊維の奥の汚れを落とす機能が高まりました。そして、酵素の配合によって少量の洗剤でも汚れを落とすことができるようになり、洗剤の箱もコンパクトになりました。微生物の研究が私たちの生活を一変させたのです。

未知の分野の研究に魅力を感じて

極限環境微生物が注目を浴びはじめたのは、1980年代のこと。それまで微生物学といえば、通常の環境にすむ微生物の研究が中心でしたが、高温や高アルカリ性といった環境に生息する微生物が発見され、研究が盛んになりました。極限環境微生物という新たな分野に興味を持った私は、今から25年ほど前、極限環境微生物研究の第一人者である堀越弘毅教授の研究室に入りました。

研究室では誰も踏み入れたことのない領域に足を踏み入れ、仮説に基づいて研究に取り組みました。仮説は必ずしも正しいとは限りません。外れたときは空しさも味わったものです。しかし、あきらめずに立ち向かい、苦労の末に、意外なところで発見に結びついたとき、研究者としてのやりがいを感じました。微生物がいるともわからない環境下で研究を重ね、実際にその存在を発見したときの興奮は、今でも忘れることができません。世界中の誰も知らない事実を自分だけが知っているというエキサイティングな体験を、この分野に飛び込もうとするみなさんにも、ぜひ味わってほしいと思います。

黙々と研究に没頭するだけではない

研究者に求められるのは、何より忍耐強さです。研究が好きという気持ちも大切です。私は研究室の学生たちに、自分の頭で考え、私が思いもよらないような発見をする“ブレークスルー”を成し遂げてほしいと思っています。入室当初は丁寧に面倒を見て、学びへの興味を引き出しますが、次第に自分でテーマを見つけ、自由な発想を大切に、自発的に研究するよう指導しています。時には企業の依頼に基づいた研究や外国の研究者にデータを提供することもあります。また、大学院生だけでなく、学部の3、4年生にも学会発表に参加する機会を設けています。

黙々と研究に没頭するだけが研究者の仕事ではありません。研究成果をまとめ、発表する能力に加え、共同研究者や研究依頼者とスムーズなコミュニケーションをはかる能力も求められます。大学卒業後は、大学院に進学して研究者としての道を歩むか、企業で研究職に就くなどの進路がありますが、大学での研究を通じて、自ら課題を見つけて粘り強く取り組む姿勢やプレゼンテーション能力、コミュニケーション能力を習得することが、社会で活躍していくカギとなるでしょう。

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道久則之教授生命科学部 応用生物科学科

  • 専門:応用微生物学(極限環境微生物と極限酵素)

  • 掲載内容は、取材当時のものです