電車のシートの座り方や行列ができる理由といった何気ない行動は、実はすべて社会心理学的に説明がつく現象ばかりだ。「街での人の流れは、決して無意識でないのですよ」と戸梶亜紀彦教授は語る。社会心理学を学ぶと、どうやら街の景色が違って見えてくるらしい。

他人の前での行動の変化

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心理学は、自分がどういう性格か、あの人は今どういう心理状態にあるのか、といった「一人の人間の心理」を学ぶ学問ですが、社会心理学は「他の人が一緒にいる状況で、人の行動はどう変わるのか」を研究する、心理学を応用させた学問です。

たとえば、自分一人だけの時には、誰の目も気にせずに気ままに行動するのに、他の人が一緒にいると、他人の目を気にして気ままな行動ができなかったり、違う行動をしてしまったりすることがありますよね。社会心理学では、その行動の変化を研究します。それは、一人対一人の関係の中での行動、集団・組織の中での人間の行動、親しい友人との行動、初対面の集団での行動など、さまざまな状態について考えるものです。人の心を目で見ることはできませんが、社会心理学では調査や実験などの科学的手法を使って、心の状態を推測していくのです。

社会心理学科では、心理学の幅広い分野を学ぶことができるようなカリキュラムが編成されています。いきなり社会心理学を学ぶのではなく、最初に基礎的な心理学を学び、自分自身や個人という一人の人間の心理状態について、まずはしっかりと理解します。その後、社会の中で起きている現象に目を向けます。人気店の前にできる行列、イベント会場での人の動きなどに人の心がどう関わっているのか、研究していくのです。

人の行動の謎に迫る

社会心理学を学ぶと、生活の中でよく見かける人間の行動や現象について、説明ができるようになります。人の行動が読めるようになるのです。たとえば通学途中で、電車のシートが、端から埋まっていく光景をよく見ませんか。なぜ、端から埋まっていくのでしょう。これには、ちゃんと理由があります。

人にはそれぞれ「パーソナル・スペース」という、他者がこれ以上入ってきてほしくないという心理的な空間があります。知り合い同士だと、その空間は狭くなりますから、近くに座っても気になりません。でも他人同士だと、一定の距離を保ちたいという気持ちが強くなります。電車の中に居合わせた人は他人同士ですから、シートの中央に座ると、自分の両側に知らない人が座ってしまいます。でも、シートの端に座ると、片側は誰も座らない空間を常に確保できるので、居心地がいいのです。これは、社会心理学的にきちんと説明がつく心理状態なのです。

社会問題解決のヒントに

最近はテレビ番組などで、心理学が取りあげられることが増えました。人の行動を社会心理学で説明することが、わかりやすく、面白く紹介されています。テレビをきっかけに、みなさんが心理学に興味を持つことに、私は大歓迎です。入口は何でもいいのです。入ってみれば、社会心理学の奥深さに触れ、テレビで取りあげていた以上に、さまざまな社会現象や人間関係の心理状況を自分なりに分析し、解説できるようになります。すると、今まで何気なく見てきた街の景色が違って見え、満員のエレベータで気まずい理由やその場所に人が集まる理由がわかってきます。きっと、現実社会がテレビ以上に面白くなりますよ。

心理学を学ぶということは、自分への理解が深まり、他者が理解できるようになること。良くも悪くも、人は互いに影響しあい、バランスをとって生きていることがわかるでしょう。その過程が意識でき、視野が広がるのです。それは、現代社会が抱える問題を改善していくヒントになるはずです。

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戸梶亜紀彦教授社会学部 社会心理学科

  • 専門:感情心理学、産業・組織心理学

  • 掲載内容は、取材当時のものです