自身を「人と人との出会いを演出する裏方」と称する志村健一教授は、知的障がいのある人たちの支援活動に取り組んできた。活動を通して志村教授がめざしているのは、社会的に弱い立場にある人たちを支える地域のネットワークを作り、継続させることだ。そのためには、地域住民の理解と協力、そしてきずなが欠かせない。これらを生み出すことに、ソーシャルワークの醍醐味がある。

知的障がい者のためのスポーツイベントに携わる

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ソーシャルワークとは、「人と社会環境が接する場で発生する問題」を扱う学問です。といっても、イメージしにくいですよね。私のゼミの取り組みを例に、ソーシャルワークについて紹介しましょう。

私は「ソーシャルワーク」を専門にしており、ゼミでは伝統的に知的障がい者の支援活動に取り組んできました。昨年携わったのが、岩手県遠野市で開催された知的障がい者のためのスポーツイベントです。東日本大震災の後、避難生活をせざるを得なくなった知的障がい者の方々は、体を動かす機会が少なくなってしまって、ストレスを大好きなスポーツで解消できなくなっていたのです。

そこで私のゼミでは、知的障がい者のスポーツ活動支援に取り組んでいる公益財団法人スペシャルオリンピックス日本と協力して、レクリエーションやトレーニング、ダンスなどを行うイベントを開催することになりました。内容の企画から遠野市の地域の方々との交渉、人員配置などの運営まで、スペシャルオリンピックスのスタッフの方々と協力し、学生たちが主体となって準備を進めました。

社会的に弱い立場の人たちが地域の中で生きていけるよう支援する

9月に開催されたイベントは大成功。参加した知的障がい者の方々だけでなく、そのご家族や地域の方々にも大変喜んでいただき、たくさんの笑顔ときずなが生まれました。ソーシャルワークの魅力は、人と人が出会い、協力し、何かを一緒に創り上げていくことにあります。自分たちだけではできないことも、人が集まり、それぞれの能力を生かせば、可能になる。とても大きなパワーを生み出すことができるのです。このイベントの場合は、イベントの開催はもちろんですが、イベントを通して知的障がいのある人たちを支える地域住民同士のネットワークをつくるきっかけができたことが、何よりも重要なのです。

人と人と、人とコミュニティとの出会いを演出し、ネットワークの形成をデザインする。さまざまな人のいろいろな力を借りて、地域のネットワークを強化し、社会的弱者と呼ばれる人たちが地域の中で生きていけるよう支援するのが、ソーシャルワークの役割なのです。

学びの場は教室だけではなく現場にもある

「人と社会環境が接する場で発生する問題」の意味することが、何となく、つかめたでしょうか。ソーシャルワークでは、その問題に「人の力」「コミュニティの力」を使って実践的にアプローチしていきます。学びの場は教室だけではなく現場にもある。これは、ソーシャルワークに限らず、社会福祉学全般に言えることです。そのため、社会福祉学科では実習などのフィールド活動を重視し、授業やゼミ以外でも、学生の多くが地域の福祉施設などでボランティア活動やアルバイトをしています。

実際に地域の人々と接するなかで、学生たちはさまざまな困難を経験します。そんな学生たちに、私が伝えてきた言葉があります。

「人はみな、勇気の翼を持っている。勇気ある一歩を踏み出そう」

何事も、やってみなければ始まりません。人とコミュニケーションをとるのが苦手だという人も、大丈夫。演習や実習などを通して、いろいろな経験ができます。さあ、みなさんも、勇気ある一歩を一緒に踏み出しましょう。

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志村健一教授福祉社会デザイン学部 社会福祉学科

  • 専門:ソーシャルワーク、社会調査(特にグラウンデッド・セオリー)、知的障がいのある人たちの社会参加

  • 掲載内容は、取材当時のものです