「文学研究は、豊かな人生を送るための知恵を探る作業である」と語る野間信幸教授は、20世紀の中国現代文学や台湾文学を専門に、文学の観点から東洋思想にアプローチする。日本人は古くから中国の文学や思想に親しんできたが、一方で、中国・台湾の現代文学は日本人にはなじみが薄い。中国文学の面白さや魅力は、どこにあるのだろうか。

中国人の美意識が織り込まれた漢字

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「国破れて山河あり」。これは杜甫の「春望」という漢詩の一節です。教科書などで一度は読んだことがあるでしょう。原文は「国破山河在」、五つの漢字からなる五言詩です。これを中国語で読むと、「グォー、ポー、シャン、ハー、ツァイ」となります。中国語特有の音と言葉が生み出すリズムから、日本語で詠んだときとはまったく異なる印象になりますね。私が担当する「文学演習」の授業では、このように漢詩を中国語で読み、解釈していきます。

文学は、言葉と密接な関係があります。言葉には、文化や歴史、思想などが色濃く現れます。ですから、どの国や地域の文学を学ぶにせよ、原典にあたることは基本中の基本であり、非常に重要なことなのです。中国文学の場合は、中国語、つまり漢字です。漢字は、中国人の美意識が織り込まれた表意文字です。たった一文字で登場人物の心理を表すことも可能なほど、豊かな表現手段なのです。

生きづらい世の中を生き抜く知恵を学ぶ

私は、中国文学の中の「中国現代文学」と「台湾文学」を専門としています。中国文学は古代から常に、政治に翻弄されてきました。この傾向は、特に20世紀の現代文学において顕著です。しかし、そのような状況のなかでも、政治と向き合い、足跡を残した作家たちがいるのです。

魯迅はその代表として知られていますが、私は巴金(パーチン)という作家を研究対象としてきました。彼は、中国の文化大革命の経験を語った『随想録』などの作品を通して、困難な時代においても、自分の頭で考え、勇気をもって発言することの大切さを訴えました。私たちは彼らの作品から、生きづらい世の中を生き抜く知恵を学ぶことができるのです。この知恵を現代の人々と共有し、次の世代に伝えていきたい。中国現代文学の研究者として、私はそう強く願っています。

一方、台湾の複雑な歴史や言語環境を反映している台湾文学も、研究対象として非常に興味深いものです。たとえば、日本の統治時代に幼少期を過ごした張文環という作家は、日本語で書きつつも、日常生活や家族史など台湾人のアイデンティティに関わる部分を描くという、複雑な事情を抱えた作品を残しています。ちなみに彼は、日本(内地)に留学した経験を持ち、一時期は東洋大学でも学んでいた、本学にゆかりの深い人物でもあるんですよ。

年を重ねるごとに深みが出る中国文学作品

東洋思想文化学科は、語学、文学、哲学、歴史学と、東洋思想を総合的に学ぶ学科です。東洋大学の原点は哲学にあります。そこにはもちろん、中国をはじめとした東洋の思想も含まれます。本学はまさに、東洋思想を学ぶメッカだと言えるでしょう。日本にとって中国とは、これまでも、そしてこれからも、密接に交流し続ける存在です。その中国について学ぶことは、将来的にも必ず生きてくるでしょう。

私自身が中国文学に興味を持ったのは、中学生の頃に読んだ魯迅の「故郷」がきっかけでした。その後、同作品を読み返すたびにまったく異なる発見があり、自分の受け止め方も変化し、すっかり魅了されてしまいました。人生経験は本の読み方を変えると言いますが、中国文学には特に、年齢を重ねるごとに深みが出てくる作品が多いと思います。

中国現代文学も台湾文学も、日本ではまだあまり知られていません。しかし、そこには「自己形成のためのヒント」や「困難を乗り越えて生きるためのヒント」がたくさんつまっています。若いときにこのような思想や文学に触れることで、みなさんがこれから豊かな人生を送っていくための知恵を得ることができるのだと、私は信じています。

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野間信幸教授文学部 東洋思想文化学科

  • 専門:中国現代文学、台湾文学

  • 掲載内容は、取材当時のものです